ディジタルFMステレオ・チューナの製作 ―― 雑誌の付属基板でここまでできる

林 輝彦

5.無線受信機の構成

 今回製作したFMステレオ・チューナを無線受信機の構成の面から見てみましょう.FM変調は古くから実用化されてきたアナログ変調方式の一つです.

 今回の受信機では,Weaver方式による直交2相の信号処理,各種フィルタリングやデシメーション,CORDICによる位相計算,純ディジタル方式によるPLLなど,ディジタル変調方式の受信機でも使用する基本的なディジタル信号処理手法を数多く使っています.

 図29はアナログ方式のFM受信機の一般的な構成を示したものです.アンテナでとらえた高周波信号(RF:76MHz~90MHz)は増幅したのち,ミキサによって局部発振器(LO)からの信号を混合してその周波数を中間周波数(IF:10.7MHz)に変換します.このように,高周波信号をいったん一定の中間周波数に変換して,増幅,検波,復調といった処理を行う方式をスーパ・ヘテロダイン方式といいます.



[図29] アナログ方式のFM受信機の一般的な構成
高周波信号(RF:76MHz~90MHz)を中間周波(IF:10.7MHz)に変換する,スーパヘテロダイン方式.

 ディジタル信号処理を使って受信機を構成する場合も,基本的な考え方はアナログ方式と変わりません.ディジタル方式では受信周波数をいったん,ある程度の周波数を持った中間周波数に変換するのではなく,一度に0Hz,DCを中心とする周波数に変換する,いわゆるダイレクト・コンバージョン方式を採用することが多くなります.今回のFMステレオ・チューナもこの方式を採用しています.

 単純に一つのミキサ(乗算器)によって,受信周波数と同じ周波数の局部発振周波数を混合して周波数変換し,周波数を0Hzに変換した場合,受信周波数より高い成分と受信周波数より低い成分の両方が正(実数)の周波数に変換されてしまい区別がつかなくなり,具合の悪いことになります.

 図30は今回のFM受信機の信号処理の流れを示したものです.局部発振器から90°位相の異なる局部信号を取り出して受信信号と混合し,以降の処理を直交2相の信号の流れとして2系統(I信号とQ信号)の信号処理を行っていきます.このように信号を直交2相の信号として扱うことで,信号の振幅情報だけでなく,位相の情報も取り扱うことができるようになり,負の周波数は位相の回転方向が逆の信号として区別できるようになります.



[図30] ディジタル方式のFM受信機の構成例
ディジタル信号処理によるぢレクト・コンバージョン(DC)方式の受信機,0Hzへ周波数変換し,直交2相の信号処理を行う.

 アナログ方式の時代にすでにこのようなダイレクト・コンバージョン方式の受信機が提案,実験されていました.しかし回路の振幅と位相特性を二つのIチャネル,Qチャネルで厳密に一定に保つことが困難で,ディジタル信号処理によって初めて広く実用化された方式といえます.

 

はやし・てるひこ
(株)ソリトンシステムズ

<筆者プロフィール>
林 輝彦.米国系マイクロプロセッサ会社に就職してしまった,元ラジオ少年.現在の会社でEDAツールの販売,技術サポートに長く従事してきたが,最近は低電力,高精度アナログ回路とディジタル回路を融合させたユニークなミックスト・シグナルICの開発に没頭中.

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