組み込みマイコンにおけるベンチマーク利用法の新しい動向 ―― 車載,産業機器,民生機器などの分野別ベンチマークを提供するEEMBC(エンバシー)

大塚聡

tag: 組み込み 半導体

技術解説 2007年6月14日

 表4に該当プロセッサのキャッシュ構成,浮動小数点演算のインプリメント法および使用コンパイラの比較を示します.

プロセッサ IBM社 PowerPC 440GX IBM社 PowerPC 750GX MIPS社 20Kc Freescale社 PowerPC 7455 Freescale社Z PowerPC 7400 NEC VR5500 PMC-Sierra社 RM5261A PMC-Sierra社 RM7000C
L1キャッシュ・サイズ(Kバイト) 32 32 32 32 32 32 32 16
L2キャッシュ・サイズ(Kバイト) 256 1024 非該当 256 1000 非該当 非該当 256
浮動小数点演算コンパイラ ソフトウェアMULTI 3.6.1 ハードウェアMULTI 3.6.1 ハードウェアMULTI 3.6 ハードウェアMULTI 3.5 ハードウェアMetaWare 4.3 ハードウェアgcc 3.1 ハードウェアgcc 3.3 ハードウェアgcc 3.3

表4 プロセッサのキャッシュ,浮動小数点演算などの比較

注1:MULTIはGreen Hills Software社のコンパイラ.
注2:MetaWareは米国MetaWare社のコンパイラ.
注3:gccはGNUプロジェクトで開発されたコンパイラ.

● ベンチマークの結果から採用するプロセッサを決める

 表4をみると,PMC-Sierra社のRM7000Cは1次キャッシュの容量が小さいため,パケット処理などの一部のベンチマークで性能が不利になります.米国IBM社のPower PC 750GXおよび米国Freescale Semiconductor社のPowerPC 7400は,2次キャッシュの容量が大きいためいくつかのベンチマークで優位になります.IBM社のPowerPC 440GXはハードウェアで浮動小数点演算を実装していないため,行列演算性能が劣ります.

 次に,CPUコアの周波数(図3)から要求コア周波数を実際にもたない製品を選定候補からはずします.Freescale社のMPC7455は733MHzと低い周波数から製品が存在するため,オプションとして残します.最後に性能と消費電力を考慮することで,IBM社のPowerPC 440GX(667MHz)およびPMC-Sierra社のRM7000C(625MHz)が選定候補に残ります.最終判断として従来機種でRM5261A(300MHz)を用いていたため,アーキテクチャを変更するリスクを取らずにPMC-Sierra社のRM7000C(625MHz)を選択します.

EEMBCベンチマークの今後の展開

 現在プロセッサ市場では,消費電力を上げずに性能を上げるという目標を達するべくプロセッサ・ベンダが競い合っています.

 ところが,プロセッサのデータシートに記載された平均消費電力は各社測定条件が異なっていたり,またはそれが十分開示されていないのが現状です.このような状態で競合するプロセッサの消費電力を比較することは難しい課題でした.そこでEEMBCは,性能評価用に開発したベンチマーク・ソフトウェアをプロセッサのエネルギー測定にも応用しようという方向性を見出しました.

 プロセッサの消費エネルギー量は,実行するプログラムおよびそのとき用いられるデータ・セットに大きく依存するため,業界標準ベンチマークを実行するという条件を付けることで,エネルギー測定条件がプログラム面で明確になりました.また,消費エネルギー測定には廉価な米国National Instruments社(http://www.ni.com)のグラフィカル開発環境LabVIEWとデータ集録用DAQデバイス,制御・集録に用いるパソコンを標準的に用いることによりハードウェア面で測定条件が明確になりました.

 これらの測定条件の詳細については,機会を改めて紹介する予定です.このようにEEMBCは,公平で明確なエネルギー測定条件を標準化することで,プロセッサ・ベンダが消費電力に関して共通の土俵で戦うことを可能にしました.電力測定は,マルチコア化が普及するにつれて,ますます重要な意味を持つようになります.今後は,電力計測ソフトウェアEnergyBenchと個別性能ベンチマークを組み合わせた場合の消費エネルギー・スコアを,EEMBCのWeb上に公開していく予定です.

*     *     *

 組み込み市場におけるプロセッサのベンチマーク・ソフトウェアは従来,プロセッサ・ベンダのマーケティング・ツールとして非常に限られた用途で使われてきました.しかし,EEMBCにより,システム設計者やASICベンダがプロセッサ・サブシステムの性能チューニングや消費エネルギーの予測にも役立てられるという新しい方向で利用できるようになり,より有効な開発ツールの一つとして位置付けられようとしています.


おおつか・さとし
ミューマイクロコンサルティング 代表
<筆者プロフィール>
大塚 聡.カナダTorontoで10年間,現地のパソコンの設計・製造会社に勤務.画像処理向けのボード設計やASIC設計を行った.帰国後,外資系半導体メーカに約14年間勤務し,応用技術部長として在職.2006年2月,ミューマイクロコンサルティングを設立し,現在に至る.

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