ルネサス・ブランドの16ビット・マイコンが初お目見え ――第6回 組込みシステム開発技術展(ESEC)

組み込みネット編集部

tag: 組み込み 半導体

レポート 2003年7月14日

 2003年7月9日~11日,東京ビッグサイト(東京都江東区)にて,組み込みシステム開発に関する展示会「第6回 組込みシステム開発技術展(ESEC)」が開催された(写真1).日立製作所と三菱電機の半導体部門が統合して2003年4月1日に発足したルネサス テクノロジが出展し,ルネサス・ブランドの最初の製品である16ビット・マイコン「R8C/Tiny」についてのデモンストレーションを行っていた.

p1.jpg
[写真1] 受付のようす
第6回 組込みシステム開発技術展(ESEC)は東京ビッグサイトにて開催された.

●ルネサス・ブランドの16ビット・マイコンはM16ベース

 ルネサス テクノロジは,20~32ピンの16ビットCPU「R8C/Tiny」シリーズの試作チップを展示した(写真2).三菱電機製のM16Cコアを搭載する.内部バスは8ビット.日立製作所製のマイコンである「H8/300Tiny」シリーズと共通のデバッグ用インターフェースを持つ.2003年第4四半期にサンプル出荷を開始する予定.

 また,同社はH8/300TinyとR8C/Tinyのどちらにも使用できるエミュレータ「E7」を展示した.ホスト・パソコンとUSBで接続する.すでに販売を開始している.

p2.jpg
[写真2] R8C/Tinyの試作チップによるデモンストレーション
中央やや上に見える32ピン QFPのチップが「R8C/Tiny」である.

●東芝情報,ブラウザ不要の組み込み向けFlash Playerを展示

 東芝情報システムは,東芝のTX4927リファレンス・ボード上に移植したMacromedia社の動画表示ソフトウェア「Flash Media Player6」を展示した(写真3).同ボードにはMontaVista Linuxやウインドウ・システム「Qt/Embedded(ノルウェーTrolltech社製)」などを搭載している.今回のFlash Media Player6は,ほかのOSへの移植も可能.また,単体のソフトウェアとしての搭載だけでなく,ブラウザのプラグイン・モジュールとしても組み込めるという.

p3.jpg
[写真3] 組み込みアプリケーション向けFlash Playerのデモンストレーション
TX4927リファレンス・ボード上にFlash Playerを搭載した.このデモンストレーションでは,ファイル・システムとしてEthernet経由で接続したパソコンを利用している.

 また,この組み込みアプリケーション向けFlash Media Playerを搭載した製品として,電子書籍と家庭内情報端末を参考展示した(写真4写真5).これらは,2003年の秋ごろに東芝や東芝ライテックから発売される予定.

p4.jpg
[写真4] 組み込み用Flash Playerを搭載した家庭用端末
画面に表示されている左上の画像の部分がFlashコンテンツになっている.CPUはSH7751R.OSはWindows CE.NETで,Webブラウザ「Internet Explorer for Windows CE」を搭載している.

p5.jpg
[写真5] 組み込み用Flash Playerを搭載した電子書籍
画面に表示されているコンテンツが丸ごとFlashで作成されている.詳細は公開されていなかった.

●再利用しやすいようにモジュール化したOSをアピール

 エルミックシステムは,リアルタイムOSやミドルウェアを機能ごとに細かくモジュール化した開発環境「NexCore(フランスNexWave社製)」を展示した.ディペンデンシ・マネージャと呼ばれる管理モジュールが各機能モジュールを管理する.ディペンデンシ・マネージャがモジュール間をつないだ後は,モジュールどうしが直接データのやりとりをするので,その分動作が高速になる.例えば,動画の表示などに向いているという.

 また,LinuxやT-Kernel,ITRONなどのOSを同システム上でモジュールの一つとして動作させることも可能(写真6).その際には,OS機能のラッパ(Linux用は「L-Integrator」,T-Kernel用は「T-Integrator」)を用いる.L-Integratorは現在開発中で,2003年秋ごろに完成予定だという.

p6.jpg
[写真6] NexCoreのデモンストレーション
PDA端末「iPAQ」のOSをWindows CEからNexCoreに入れ替え,さらにNexCore上のモジュールとしてWindows CEを搭載し,NexCore上の動画表示用プログラムとWindows CEのアプリケーション・プログラムをマルチ・ウィンドウで表示して見せた.

 CPUなどのハードウェアになるべく依存しないようにモジュールを分割しているため,モジュールの再利用が容易だという.製品出荷後にも,CD-ROMなどのメディアやネットワークを利用してモジュールを追加することが可能.

 NexCoreで規定されているインターフェースさえ実装すれば,既存のミドルウェアなども同環境のモジュールとして利用できる.例えばエルミックシステムは,同社のTCP/IPプロトコル「KASAGO」をNexCore用にモジュール化した製品「KASAGO for NexCore」を提供している.

●ベルギーのDSP Valleyのメンバ企業,日本での事業展開を発表

 ベルギーのNPO(Non-profit Organization)団体であるDSP Valleyのブースでは,メンバ企業によるデモンストレーションなどが行われた(写真7).DSP Valleyは,ベルギーのフランダース州政府の企業誘致局(FFIO)が認定した民間プロジェクトであり,同時に同州のDSP技術に特化した研究開発拠点となる地域を指す.本プロジェクトでは,地域の活性化などを目指している.正式メンバは,現在のところST Microelectronics社,Xilinx社,Philips社などの20社と,大学や政府機関など5団体.今後は,日本企業のDSP Valley誘致も推進していくという.

p7.jpg
[写真7] DSP Valleyのブースのようす
メンバ企業のAcunia社,Mind社,PMTC(Proffesional Multimedia Test Centre)社,Target Compiler Technologies社がデモンストレーションを行った.

 DSP Valleyのメンバの一つであるベルギーTarget Compiler Technologies社は,ディジタル信号処理プロセッサ(DSP)やマイクロントローラ,CPU内蔵ASICなどの開発ツール「Chess/Checkers」のデモンストレーションを行っていた.

 ユーザは,同社が開発したnML言語によって所望のプロセッサの命令セットやデータ・パス回路を定義する(写真8).定義したモデルを同社のツールに入力すると,Cコンパイラ,アセンブラ,リンカ,命令セット・シミュレータなどが自動生成される.また,プロセッサのRTLのVHDLコードやテスト・プログラムも生成される.同社によるとSTMicroelectronics社が開発した端末向けADSLチップの中の二つの主要なブロックが,同ツールを用いて設計されたという.

 本ツールとは別に,既存のプロセッサのソフトウェア開発環境を生成するツール「Checkmate」も発売する.Checkmateは,Chess/CheckersからVHDLコード生成部などを取り除いたものである.

p8.jpg
[写真8] 「Chess/Checkers」のデモンストレーション
nML言語を用いて16ビットDSPを作成した.画面の左側がnMLのソース・コード,右側が対応する回路図である.

 ベルギーPMTC社は,1997年にオランダPhilips社のマルチメディア・テスト・センターが独立して設立された.主な業務は各種試験サービス(機能試験,相互運用性試験,認証・認可試験)の提供である.例えばUSBについては,USB-IF(Implementers Forum)から認定を受けた欧州で唯一のテスト機関である.USB2.0規格であるハイスピード・モードの試験にも対応している.また,現在はUSB2.0の追加規格であるUSB On-The-Go(OTG)の認証試験の仕様策定のコア・メンバとして,テスト仕様のドラフトを作成しているという.これに伴って,OTGのプレテスト・サービスを提供している.

 2003年2月には日本事務所を設立した.ここでは,USB認証のための技術サポート・サービスや日本語による試験レポートの作成,試作段階におけるテストなどを行う.現在のところ,日本事務所はUSBのロゴ認証試験についてUSB-IFから試験機関として認定されていないため,本試験はベルギーの本社で行われている.2003年中にUSBの試験機関としての認定を取得し,2004年からは本試験に対応していく予定である.

●PictBridgeに対応したプロトコル・アナライザ

 富士通デバイスは,PictBridgeに対応したUSBプロトコル・アナライザ「USB ZERONE」のデモンストレーションを行った(写真9).PictBridgeは,USB規格をベースとするディジタル・カメラとプリンタの間のインターフェース規格である.ホストを介することなく,ディジタル・カメラの画像を直接プリンタで印刷できる.2002年12月にオリンパス光学工業,キヤノン,セイコーエプソン,ソニー,ヒューレット・パッカード,富士写真フイルムが発表し,2003年2月にカメラ映像機器工業会(CIPA)規格「CIPA DC-001-2003 Digital Photo Solutions for Imaging Devices」として認定された.

 USB ZERONEは,USB2.0およびその追加規格であるUSB On-The-Goに対応している.トレース可能なデータ転送速度として,USB2.0のすべてのモード,すなわちロースピード・モード(1.5Mbps),フルスピード・モード(12Mbps),ハイスピード・モード(480Mbps)に対応している.VBUS電圧・電流の簡易測定機能も備えている.

p9.jpg
[写真9] USB ZERONEのデモンストレーション
USBフラッシュ・メモリを用いたデモンストレーション.画像転送用の標準プロトコルであるPTP(Picture Transfer Protocol)の解析結果や帯域を表示する.

●展示会場のノイズにも負けない音声認識ミドルウェア

 セイコーエプソンのブースでは,同社の32ビットRSICプロセッサ「S1C33L11」と,米国Fonix社の音声合成・認識ミドルウェアを組み合わせたデモンストレーションを行われた(写真10)

 S1C33L11は,JPEG圧縮/伸張回路やLCDコントローラ,カメラ・インターフェース回路などの画像処理機能を備えている.LCDコントローラの解像度は最大176×240ピクセル.また,USB1.1インターフェース回路やオフィスノアの動画像圧縮/伸張ソフトウェア「Nancy Codec」向けアクセラレータ回路などを内蔵している.

 Fonix社は3種類の音声合成ミドルウェアを提供する.すなわち,携帯機器向けの「Dectalk」,サーバ向けの「Concatenated」,特定のことばのみに対応する「Custom」である.それぞれに必要なリソースは,Dectalkが512KバイトのROMと64KバイトのRAM,Concatenatedが4M~150MバイトのROMと512KバイトのRAM,Customが60Kバイト(英語100語分)のROMと32KバイトのRAMである.音声認識では,30~50程度の英単語に対して256KバイトのROMおよびRAMが必要になる.本ミドルウェアの認識にニューラル・ネット方式を採用している.専用のマイクを使わなくても音声を認識できる(写真11)

p10.jpg
[写真10] デモンストレーションの構成
Fonix社の音声合成ミドルウェアは,英語,ドイツ語,フランス語,スペイン語,スウェーデン語に対応してる.日本語への対応は2003年末の予定.一方,音声認識ミドルウェアはすでに日本語に対応している.

p11.jpg
[写真11] 「S1C33L11」を用いた音声合成・認識のデモンストレーション
音声認識ミドルウェアは耐ノイズ性能が高く,展示会場でも普通のマイクで音声を認識できていた.ミドルウェアに対応したS1C33L11搭載の評価ボードはまだ発売されていないが,同社の汎用マイコン「S1C33209」搭載の評価ボードは出荷されている.

●情報・通信系の処理もこなせるPLC

 横河電機のブースでは,PLC(programmable logic controller)に情報系/通信系の処理機能を加えた「All in Oneコントローラ」のデモンストレーションが行われていた(写真12).通常,PLCは制御系の処理には強いが,情報系/通信系の処理には向いていない.本コントローラのターゲット・アプリケーションはFA(factry automation)機器ではなく,例えばアミューズメント(ゲーム機,ロボット)機器やITS(Intelligent Transport Systems)機器などである.2003年秋ごろに特定ユーザ向けに出荷を開始する予定.本コントローラのプログラミングはC言語で行う.

 アナログ入力とディジタル入力の両方に対応した製品と,ディジタル入力にのみ対応した製品の2種類を用意する.前者の製品は,8本のアナログ入力と32本のディジタル入出力,2チャネルのRC-232-C,1チャネルのRS-485を備える.一方,後者の製品は,32本のディジタル入力と16本のディジタル出力,4チャネルのRS-232-C,1チャネルのRS-485を備える.両製品ともマウス,キーボード用のUSB1.1ドライバを備えている.また,通信用インターフェースとして,10M/100M Ethernetに対応.CompactFlashスロットやSDカード・スロットを備えている.動作温度は-10℃~60℃.

p12.jpg
[写真12] All in Oneコントローラのデモンストレーション
参考出展された「All in Oneコントローラ」のデモンストレーション.飛び出してきたボールがくぎに当たった回数をカウントするという制御系の処理(写真右)と,画像をディスプレイに表示するという情報系の処理を同時に行っている.

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日