ルネサス・ブランドの16ビット・マイコンが初お目見え ――第6回 組込みシステム開発技術展(ESEC)
2003年7月9日~11日,東京ビッグサイト(東京都江東区)にて,組み込みシステム開発に関する展示会「第6回 組込みシステム開発技術展(ESEC)」が開催された(写真1).日立製作所と三菱電機の半導体部門が統合して2003年4月1日に発足したルネサス テクノロジが出展し,ルネサス・ブランドの最初の製品である16ビット・マイコン「R8C/Tiny」についてのデモンストレーションを行っていた.
●ルネサス・ブランドの16ビット・マイコンはM16ベース
ルネサス テクノロジは,20~32ピンの16ビットCPU「R8C/Tiny」シリーズの試作チップを展示した(写真2).三菱電機製のM16Cコアを搭載する.内部バスは8ビット.日立製作所製のマイコンである「H8/300Tiny」シリーズと共通のデバッグ用インターフェースを持つ.2003年第4四半期にサンプル出荷を開始する予定.
また,同社はH8/300TinyとR8C/Tinyのどちらにも使用できるエミュレータ「E7」を展示した.ホスト・パソコンとUSBで接続する.すでに販売を開始している.
●東芝情報,ブラウザ不要の組み込み向けFlash Playerを展示
東芝情報システムは,東芝のTX4927リファレンス・ボード上に移植したMacromedia社の動画表示ソフトウェア「Flash Media Player6」を展示した(写真3).同ボードにはMontaVista Linuxやウインドウ・システム「Qt/Embedded(ノルウェーTrolltech社製)」などを搭載している.今回のFlash Media Player6は,ほかのOSへの移植も可能.また,単体のソフトウェアとしての搭載だけでなく,ブラウザのプラグイン・モジュールとしても組み込めるという.
また,この組み込みアプリケーション向けFlash Media Playerを搭載した製品として,電子書籍と家庭内情報端末を参考展示した(写真4,写真5).これらは,2003年の秋ごろに東芝や東芝ライテックから発売される予定.
●再利用しやすいようにモジュール化したOSをアピール
エルミックシステムは,リアルタイムOSやミドルウェアを機能ごとに細かくモジュール化した開発環境「NexCore(フランスNexWave社製)」を展示した.ディペンデンシ・マネージャと呼ばれる管理モジュールが各機能モジュールを管理する.ディペンデンシ・マネージャがモジュール間をつないだ後は,モジュールどうしが直接データのやりとりをするので,その分動作が高速になる.例えば,動画の表示などに向いているという.
また,LinuxやT-Kernel,ITRONなどのOSを同システム上でモジュールの一つとして動作させることも可能(写真6).その際には,OS機能のラッパ(Linux用は「L-Integrator」,T-Kernel用は「T-Integrator」)を用いる.L-Integratorは現在開発中で,2003年秋ごろに完成予定だという.
CPUなどのハードウェアになるべく依存しないようにモジュールを分割しているため,モジュールの再利用が容易だという.製品出荷後にも,CD-ROMなどのメディアやネットワークを利用してモジュールを追加することが可能.
NexCoreで規定されているインターフェースさえ実装すれば,既存のミドルウェアなども同環境のモジュールとして利用できる.例えばエルミックシステムは,同社のTCP/IPプロトコル「KASAGO」をNexCore用にモジュール化した製品「KASAGO for NexCore」を提供している.
●ベルギーのDSP Valleyのメンバ企業,日本での事業展開を発表
ベルギーのNPO(Non-profit Organization)団体であるDSP Valleyのブースでは,メンバ企業によるデモンストレーションなどが行われた(写真7).DSP Valleyは,ベルギーのフランダース州政府の企業誘致局(FFIO)が認定した民間プロジェクトであり,同時に同州のDSP技術に特化した研究開発拠点となる地域を指す.本プロジェクトでは,地域の活性化などを目指している.正式メンバは,現在のところST Microelectronics社,Xilinx社,Philips社などの20社と,大学や政府機関など5団体.今後は,日本企業のDSP Valley誘致も推進していくという.
DSP Valleyのメンバの一つであるベルギーTarget Compiler Technologies社は,ディジタル信号処理プロセッサ(DSP)やマイクロントローラ,CPU内蔵ASICなどの開発ツール「Chess/Checkers」のデモンストレーションを行っていた.
ユーザは,同社が開発したnML言語によって所望のプロセッサの命令セットやデータ・パス回路を定義する(写真8).定義したモデルを同社のツールに入力すると,Cコンパイラ,アセンブラ,リンカ,命令セット・シミュレータなどが自動生成される.また,プロセッサのRTLのVHDLコードやテスト・プログラムも生成される.同社によるとSTMicroelectronics社が開発した端末向けADSLチップの中の二つの主要なブロックが,同ツールを用いて設計されたという.
本ツールとは別に,既存のプロセッサのソフトウェア開発環境を生成するツール「Checkmate」も発売する.Checkmateは,Chess/CheckersからVHDLコード生成部などを取り除いたものである.
ベルギーPMTC社は,1997年にオランダPhilips社のマルチメディア・テスト・センターが独立して設立された.主な業務は各種試験サービス(機能試験,相互運用性試験,認証・認可試験)の提供である.例えばUSBについては,USB-IF(Implementers Forum)から認定を受けた欧州で唯一のテスト機関である.USB2.0規格であるハイスピード・モードの試験にも対応している.また,現在はUSB2.0の追加規格であるUSB On-The-Go(OTG)の認証試験の仕様策定のコア・メンバとして,テスト仕様のドラフトを作成しているという.これに伴って,OTGのプレテスト・サービスを提供している.
2003年2月には日本事務所を設立した.ここでは,USB認証のための技術サポート・サービスや日本語による試験レポートの作成,試作段階におけるテストなどを行う.現在のところ,日本事務所はUSBのロゴ認証試験についてUSB-IFから試験機関として認定されていないため,本試験はベルギーの本社で行われている.2003年中にUSBの試験機関としての認定を取得し,2004年からは本試験に対応していく予定である.
●PictBridgeに対応したプロトコル・アナライザ
富士通デバイスは,PictBridgeに対応したUSBプロトコル・アナライザ「USB ZERONE」のデモンストレーションを行った(写真9).PictBridgeは,USB規格をベースとするディジタル・カメラとプリンタの間のインターフェース規格である.ホストを介することなく,ディジタル・カメラの画像を直接プリンタで印刷できる.2002年12月にオリンパス光学工業,キヤノン,セイコーエプソン,ソニー,ヒューレット・パッカード,富士写真フイルムが発表し,2003年2月にカメラ映像機器工業会(CIPA)規格「CIPA DC-001-2003 Digital Photo Solutions for Imaging Devices」として認定された.
USB ZERONEは,USB2.0およびその追加規格であるUSB On-The-Goに対応している.トレース可能なデータ転送速度として,USB2.0のすべてのモード,すなわちロースピード・モード(1.5Mbps),フルスピード・モード(12Mbps),ハイスピード・モード(480Mbps)に対応している.VBUS電圧・電流の簡易測定機能も備えている.
●展示会場のノイズにも負けない音声認識ミドルウェア
セイコーエプソンのブースでは,同社の32ビットRSICプロセッサ「S1C33L11」と,米国Fonix社の音声合成・認識ミドルウェアを組み合わせたデモンストレーションを行われた(写真10).
S1C33L11は,JPEG圧縮/伸張回路やLCDコントローラ,カメラ・インターフェース回路などの画像処理機能を備えている.LCDコントローラの解像度は最大176×240ピクセル.また,USB1.1インターフェース回路やオフィスノアの動画像圧縮/伸張ソフトウェア「Nancy Codec」向けアクセラレータ回路などを内蔵している.
Fonix社は3種類の音声合成ミドルウェアを提供する.すなわち,携帯機器向けの「Dectalk」,サーバ向けの「Concatenated」,特定のことばのみに対応する「Custom」である.それぞれに必要なリソースは,Dectalkが512KバイトのROMと64KバイトのRAM,Concatenatedが4M~150MバイトのROMと512KバイトのRAM,Customが60Kバイト(英語100語分)のROMと32KバイトのRAMである.音声認識では,30~50程度の英単語に対して256KバイトのROMおよびRAMが必要になる.本ミドルウェアの認識にニューラル・ネット方式を採用している.専用のマイクを使わなくても音声を認識できる(写真11).
●情報・通信系の処理もこなせるPLC
横河電機のブースでは,PLC(programmable logic controller)に情報系/通信系の処理機能を加えた「All in Oneコントローラ」のデモンストレーションが行われていた(写真12).通常,PLCは制御系の処理には強いが,情報系/通信系の処理には向いていない.本コントローラのターゲット・アプリケーションはFA(factry automation)機器ではなく,例えばアミューズメント(ゲーム機,ロボット)機器やITS(Intelligent Transport Systems)機器などである.2003年秋ごろに特定ユーザ向けに出荷を開始する予定.本コントローラのプログラミングはC言語で行う.
アナログ入力とディジタル入力の両方に対応した製品と,ディジタル入力にのみ対応した製品の2種類を用意する.前者の製品は,8本のアナログ入力と32本のディジタル入出力,2チャネルのRC-232-C,1チャネルのRS-485を備える.一方,後者の製品は,32本のディジタル入力と16本のディジタル出力,4チャネルのRS-232-C,1チャネルのRS-485を備える.両製品ともマウス,キーボード用のUSB1.1ドライバを備えている.また,通信用インターフェースとして,10M/100M Ethernetに対応.CompactFlashスロットやSDカード・スロットを備えている.動作温度は-10℃~60℃.