2013年 勘と経験と度胸(KKD)の製造プランや店舗プランもコンピューティングが教えてくれる!?―― 組み込みネット新春インタビュー(2) インテル

Tech Village編集部

tag: 組み込み 半導体

インタビュー 2013年1月 8日

Tech Village「組み込みネット」では,新春特別企画として,「2013年,組み込み技術の展望」をお届けします.本企画は,2013年の技術動向や産業動向を紹介する目的で,組み込み関連企業などにインタビューを行いました.第2回は,インテルの津乗 学氏(写真1)に,2013年のインテル・アーキテクチャの組み込み市場における取り組みについて話を伺いました.(Tech Village編集部)

 

写真1 インテル クラウド・コンピューティング事業本部 エンベデッド/CE事業開発部 プロダクト・マーケティング・マネージャーの 津乗 学氏

 

 

―― 2012年を振り返って,組み込みシステム開発の市場に対してどのような提案を行ってきましたか?

津乗氏:ET(Embbedded Technlogy) 2012の会場展示を例に説明します.ET 2012のインテル・ブースでは,2011年に引き続きインテリジェント・システムのソリューションを展示しました.ブースの構成を刷新し,新たにオートモーティブ・ゾーンを作りました.このほか,消費者向けのソリューションを紹介するパーソナル・ゾーンと,産業機器ゾーンで構成しました.オートモーティブ・ゾーンを新設したので,2011年とは少し業種の違った来場者に来ていただくことができました.

 オートモーティブ・ゾーンでは,新たに HTML 5を使用した地図情報システムを展示しました.これは,2012年11月に地図情報サービスのベンダであるゼンリンと弊社の共同でリリースを発表したものです.また,インテル・アーキテクチャは主にパソコンで採用されているので,起動が遅いという印象があります.そこで,車載用を想定して起動時間を短縮するFast Boot機能のデモンストレーションも行いました.

 パーソナル・ゾーンでは,ディジタル・サイネージなど,情報をインタラクティブに伝える展示が増えています.カラオケ用途では,ディスカッション・テーブル(天板がタッチ・パネル付きディスプレイになっている会議テーブル)のデモンストレーションを行いました.これは,複数のユーザが選曲や飲み物の注文を行える機器です.このように,第3世代のインテルCoreプロセッサを使用した組み込み機器を展示しました.

 産業機器ゾーンでは,「予知的なメンテナンス(Predictive Maintenance)」をキーワードの一つとして展示を行いました.現在,産業用ロボットのメンテナンスは,作業上のずれをセンサで検知し,情報を現場で確認して補正を行っています.予知的なメンテナンスの場合,センサで検知した情報をクラウド・サーバに集めて解析し,問題がある個所についてはアラート情報を出して,作業上のずれを補正します.また,HEMS(Home Energy Management System)やビデオ解析などのシステムも展示しました.

 

―― 2013年の組み込みシステムにはどのような変化があると思いますか?

津乗氏:今までは,パソコンやサーバという形で「コンピュータ」が存在していました.これからは,家庭や車,工場,病院などに見えない形で「コンピューティング」が入り込み,ネットワークで結ばれます.また,この接続された組み込み機器同士で“インテリジェント”を生み出すシステムが構成されます.

 インテルでは,このインテリジェント・システムを構成する組み込み機器やタブレットPC,スマートフォンなどの携帯端末を合わせると,約40億台の需要があると考えています.そのうち,組み込み機器については約10億台と想定しています.

 

―― インテルが考える2013年の組み込みシステム技術のキーワードを教えてください.


津乗氏:大きな流れを作っている五つの要因として,「没入型の体験」,「クラウドの接続」,「データ解析」,「セキュリティと信頼性」,「ワークロードの統合」があると考えています(図1).

 

図1 大きな流れを作っている五つの要因

 

 没入型の体験については,ここ数年,タッチ・パネルやジェスチャ・インターフェース,音声認識など,優れたユーザ・インターフェースが出てきました.利用者の期待は高まり,今後はすべての機器に対して,操作性や反応の良さが求められるようになります.

 クラウドの接続については,全ての機器がクラウドへつながるようになると,これまで以上に汎用性の高いOSやプロセッサが必要となります.また,クラウドへ一気通貫で接続するためには,操作性やパスワード,アーキテクチャなどに汎用性が必要だと考えています.

 データ解析については,今では,自動販売機にセンサやカメラが組み込まれ,どのようなものが売れているのかを分析してきました.これからは店舗などでも画像解析を利用して,消費者の行動の分析が可能となります.例えば,棚の状況やフロアのレイアウト,および来店者の行動をデータ化して分析し,売り上げの上がる確実な店舗プランを提案できます.工場では,人の動線や作業工程などをデータ化して分析し,生産性が上がるインテリジェンスな製造プロセスを構築できます.

 セキュリティと信頼性については,インターネットへの接続点が増えれば増えるだけ,ウイルスや情報漏えいの脅威にさらされます.しかし,脅威を恐れてスタンドアローンに戻ることは出来ません.そこで,セキュリティと信頼性,安全性を担保することが重要になります.

 ワークロードの統合については,複数の処理をまとめて一つの機器で稼動させるイメージです.これまでは,専用のプロセッサを搭載した機器を処理ごとに配置していました.これに対して,高性能なCPUを搭載した機器を1台配置し,仮想化などの技術を使ってその機器に全ての処理を実行させます.これにより確実なコスト・ダウンが図れ,生産性が向上します.

 また新しいキーワードとして,インテルが今後継承していく「インテリジェント・システム・フレームワーク」があります(図2).これは,昨年(2012年)9月に開催したIDF(Intel Developer Forum) 2012で発表しました.「モノのインターネット(Internet of Things)」への移行が加速している時代に,相互接続性を高めるソリューションにより,機器の接続や管理,セキュリティの課題を一貫性と拡張性のある形で解決し,発展させるフレームワークです.これは,インテルだけでけん引するのではなく,エコシステムを構成する業界全体で進めていくものになります.

 

図2 インテリジェント・システム・フレームワーク


 

 

―― CPU以外に,インテルではどのような製品を提供していますか?

津乗氏:インテルは,ソフトウェア開発ツールにも力を入れています.現在,組み込み系でよく利用されているIntel Atomプロセッサでは,マルチコアの品種が増えています.そこで,インテル・アーキテクチャのマルチコア上で,ソフトウェアの並列処理性能を最適化する「Intel Parallel Studio」を提供しています.また,組み込みシステム開発では,市販のBIOS(Basic Input Output System)ではなく,軽量のブート・ローダが必要な場合があります.このような用途で,「Intel Boot Loader Development Kit(Intel BLDK)」を無償提供しています.現在,基地局などの信号処理には,DSPやFPGAなどの専用LSIを使用しています.その処理をまとめ,1個のIntel Xeonプロセッサで実行するための「Intel Data Plane Development Kit(Intel DPDK)」を提供しています.

 インテルは,30年以上に渡って,組み込みシステム開発を支援しています.この活動の基盤となる技術は,創設者のゴードン・ムーアが提唱した「ムーアの法則」に基づくプロセス・ルールの微細化です.また,インテルには,「チック・タック・モデル」があり,このモデルに基づいてプロセッサを進化させてきました.「チック・タック」とは,奇数年にはプロセスの微細化を行い,偶数年にはアーキテクチャの刷新を行うという開発ロードマップです.2013年はプロセス微細化の年となり,14nmプロセスによる製造を予定しています.今年もインテルの組み込みシステムへの取り組みにご期待ください.

 

参考URL
(1) インテル;インテル,ゼンリン,マルチ・プラットフォームに対応する先進地図サービスの開発に向け協力のリリース
(2) インテル;Fast Boot を使用した起動時間の短縮
(3) インテル;Intel Parallel Studio 製品ページ
(4) インテル;Intel Boot Loader Development Kitの解説
(5) インテル;インテルアーキテクチャでのパケット処理の解説
 

 ⇒ 特集企画TOPへ戻る

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日