組み込みマイコンにおけるベンチマーク利用法の新しい動向 ―― 車載，産業機器，民生機器などの分野別ベンチマークを提供するEEMBC（エンバシー）

● Dhrystoneは汎用プロセッサの性能評価に使われるが，プロセッサ，メモリ，サブシステムの性能予測は困難

　Dhrystoneは1984年にReinhold P. Weickerが開発したベンチマーク・ソフトウェアです．一つの測定ループの中に存在する12個のプロシージャ（手続き）から構成される合成ベンチマーク（synthetic benchmark）です．合成ベンチマークとは，一般的なプログラムを統計的に分析し，その負荷を再現できるようにした単純なプログラムの集合体です．

　Dhrystoneは，頻繁に使うコピーや比較といったストリング処理をプログラムのベースにしており，プロセッサの整数演算性能を評価するためのものです．1秒間に何回測定ループを回せたかで処理性能を評価します．VAX11/780の性能が1MIPSとよく言われますが，このマシンのDhrystone値が1,757になるため，測定結果のDhrystone値を1,757で割った値をDMIPS（ドライストーン・ミップス）という場合が多くあります．

　Dhrystoneは現在，プロセッサ・ベンダのマーケティング・ツールとして一般的に用いられているベンチマーク・ソフトウェアの一つです．しかし，プログラム・サイズが比較的小さく，キャッシュにヒットしてしまうため，メモリ・バスの性能まで考慮することができません．現実的なプロセッサの性能はメモリとのインターフェースに大きく依存するため，Dhrystoneではプロセッサ・メモリ・サブシステムの性能を予測することは困難です．

● SPECmarkはワークステーションやサーバで用いられるソフトウェアをベースにしている

　SPECmarkは，もともとワークステーション・メーカが主体となって策定したベンチマーク・ソフトウェアです．米国の非営利団体SPEC（Standard Performance Evaluation Corporation，http://www.spec.org/）はワークステーションやサーバで実際に用いられるアプリケーション・ソフトウェアをベースにSPECmarkを策定しており，これはDhrystoneのような合成ベンチマークではありません．整数演算性能を示すSPECintと浮動小数点演算性能を示すSPECfpがあります．

　1989年にリリースされたSPEC89からスタートし，プロセッサの進化とともにこのベンチマークにも拡張と改良が加えられ，SPEC92, SPEC95, SPEC CPU2000, CINT2000, CFP2000へと発展していきました．具体的なベンチマークの種類としては，流体シミュレーション171.swim，3次元空間におけるマルチグリッド・ソルバ172.mgrid，変微分方程式173.applu，流体力学178.galgelなどがあります．SPECmarkは高性能をうたうプロセッサのマーケティング・ツールとしてよく利用されます．

● BDTIは信号処理向けで，DSP，汎用プロセッサ，FPGAが評価対象

　BDTIベンチマークは，信号処理能力の検証用ベンチマーク・ソフトウェアです．アルゴリズム・カーネル・ベンチマーク・スイーツであるBDTI DSP Kernel Benchmarks と信号処理アプリケーションであるBDTI DSP Application Benchmarksから構成されます．

　前者は信号処理に共通したベンチマークの集合体で，後者は画像や通信といった用途別ベンチマークとなっています．DSP，汎用プロセッサ，FPGAがこのベンチマークの評価対象となります．米国BDTI（Berkley Design Technology, Inc.,）は，それらの評価対象を作る製造メーカとは独立して，ベンチマーク結果であるBDTImarkを計測，検証，認定および公開するサービスを提供しています．