物理層にUWBを用いるWireless USB接続 ――従来のUSB 2.0インターフェースと同じところ,違うところ
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MBOAのMAC
Wireless USBは,MBOA(Multi-band OFDM Alliance)の定めるMAC(media access controller)層を使用します 注A-1 .MBOA MACはUWB技術を使用しており,無線で480Mbpsものデータ転送速度を実現します.UWBは3.1GHz~10.6GHzの周波数帯域で動作します.マルチバンドOFDMは,この7.5GHz帯域幅を14の帯域に分割しており,1帯域当たりの帯域幅は528MHzとなります.
14の帯域は五つのグループに分類されます.最初の四つのグループにはそれぞれ三つの帯域が含まれ,最後の一つのグループには二つの帯域が含まれます.三つの帯域のグループにはそれぞれ七つの論理チャネルがあり,二つの帯域のグループには二つの論理チャネルがあります.つまり,合計で最大30の論理チャネルが存在します.
各論理チャネルは3mの距離で最大480Mbpsのデータ転送速度に対応します.データ転送速度を53.3Mbpsにまで低減すると,距離は最大10mに広がります.単一のMBOAデバイスで対応できる距離は,「1ホップ」と呼ばれます.
すべてのMBOA MACデバイスには,一意の64ビットMACアドレス(EUI-64)が備わっています.フレームのオーバヘッドを低減するため,MBOAは64ビットMACアドレスを16ビットのデバイス・アドレス(DevAddr)に割り当てます.1m3当たり最大64台のデバイスに対応する拡張クラスタ(2ホップ以内)には,この16ビット・アドレス空間で十分です.デバイスは,その拡張クラスタ内でのDevAddrの使用状況を確認することで,競合を検出します.競合が検出されれば,デバイスはそのDevAddrをランダムに生成することになります.
3ホップ以上離れているMBOAデバイスは,干渉を起こすことなく通信時間(エア・タイム)を再使用できます.この場合,例えば次に示すようなビーコン・スロットを用いて通信時間の割り当てを行います.
通信時間を管理するため,MBOA MACではメディア・アクセス・スロット(MAS)を規定しています.各MASは256μsの長さを持ち,256個のMASによってスーパフレーム(機器間でフレーム通信を行うための基本となる65536μs周期の信号)を構築します(図A-1).デバイスは,スーパフレームごとにもっとも遅いクロックに同期させて,デバイス間のクロックのドリフトを制御しています.
節電のため,MBOA MACではビーコン期間(BP:beacon period)内にすべてのビーコンを送信しなければならないと規定されています.ビーコン期間としては,スーパフレームの最初の32のMAS(8ms)を割り当てます.ビーコン期間では,各MASは三つのビーコン・スロット(1スロット当たり約85μs)に分割されています.ビーコン・スロット0,1は「信号スロット」と呼ばれます.デバイスは,必要に応じて信号スロット内にそのビーコンを複製して,ビーコン期間が拡張されていることを近隣デバイスに通知します.
拡張クラスタ内のビーコン・スロットの衝突を検知するため,デバイスはその近隣デバイスのビーコンを利用したり,あるいはデバイス自身のビーコンの送信を不規則に停止して,近隣デバイスがすでにそのビーコン・スロットを使用しているかどうかを確認します.衝突が検知されれば,デバイスは自分のビーコン・スロットを移動します.
このようなビーコン・スロットの移動によって別のクラスタのビーコン期間と重複した場合,デバイスはこの衝突を瞬時に解決するため,先にあったビーコン期間を「ホスト・ビーコン期間」としてとどまらせておきます.そして,後からきたビーコン期間はホスト・ビーコン期間の最後に移動させます.
注A-1;現在,ワイヤレス通信に対応したUSBについては,いくつかの半導体メーカなどから異なる通信方式が提案されている.