つながるワイヤレス通信機器の開発手法(7) ――続・原理設計を行う 通話の原理から通信を学ぶ
2.通話のための手順を理解する
電話をかける場合の通話の手順を考えてみる.
- 受話器を上げる
- 相手先にダイヤルする
- 通話(あるいは話中)
この手順(しくみ)を通信の世界では「呼制御」と呼び,電話をかける側とかけられる側の呼制御のための信号のやりとりを「プロトコル」と呼ぶ.ここでは,移動機(移動体電話)を例に挙げ,呼制御とプロトコルを説明する.
移動機の場合,呼制御は図6のような8状態で実現される.これらの処理を行うことにより,移動機は通話することができる.また,着信の場合は,次のような手順をとる.
- 待ち受け状態で異なる位置登録エリアへ移動したときは位置登録状態へ遷移し,位置登録を行う.位置登録が終了すると,待ち受け状態に戻る.
- 待ち受け状態で相手先から呼び出されると,着呼状態へ遷移する.
- 着呼状態では基地局と交換機側の接続制御が行われ,相手先と接続する.
- 相手の移動局が応答し,通話路が接続されると,通話状態に遷移する.
- 相手との通話を切断すると,終話状態へ移行して終話処理を行い,待ち受け状態になる.
なお,基地局も移動機と同じ状態を持っており,移動機と同期をとりながら呼制御を実現する.
通話中は音声信号を送受信するが,呼制御では通話状態に入るまでに複数のデータのやり取りが行われる.このデータは複数の論理チャネルにより授受される(図7).
状 態
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内 容
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遷移先
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電源ON | 移動局の電源が投入されると,待ち受け状態に遷移 | 待ち受け |
待ち受け | 発着呼を待ち受ける状態.条件により複数の異なる状態へ遷移 | 位置登録:移動局が新しい位置登録エリアへ移動した場合,位
置登録に遷移 発呼状態:オフフック・ボタンが押され,ダイヤルされた場合 着呼状態:着呼要求メッセージを基地局から受信した場合 |
位置登録 | 移動機の位置を特定するために基地局と通 信し,位置登録を行う | 移位置登録後,待ち受けに戻る |
発呼 | 相手の電話を呼び出す | 通話 |
着呼 | 相手から呼び出される | 通話 |
通話 | 通話 | 終話(1):移動局のオンフック・ボタンが押された場合
終話(2):相手先から通話を切断された場合 終話(3):通話中に基地局,移動局とも受信レベルが異常に低下した場合 チャネル切り替え:現在のセルで通話中の移動局が隣のセルに移動する場合 |
終話 | 通話を終了する処理 | 待ち受け |
チャネル 切り替え |
通話中にセルの切り替えを行う | 通話 |
(b)状態の詳細
〔図6〕 移動機における呼制御
移動機の場合,呼制御は8状態で実現される.また,着信の場合,状態は(a)の灰色の部分のみで遷移する.(a)の中の数字は,着信のときの遷移を表している.
〔図7〕無線チャネルの構成
PDC方式における無線チャネルを機能別に分類する(論理チャネル)と,図のようになる.ユーザ占有型チャネルは,通話中に音声情報に付随して制御情報を送信するために使用することから,付随制御チャネルとも呼ばれる.また,SACCHとFACCHの使い分けは事業者によって異なる.