つながるワイヤレス通信機器の開発手法(7) ――続・原理設計を行う 通話の原理から通信を学ぶ
2)バッド・フレーム・マスキング
エラー制御によって高品質の音声転送を行う場合,通信路でエラーが生じてエラー訂正ができないときがある.このような場合,「エラーが生じたフレームのデータを音声の復号には使わない」という方法が採られる.この方法は「バッド・フレーム・マスキング」と呼ばれる.単純な方法としては,エラーが生じたフレームをミュート(消音)する方法と,前の音をそのまま使う方法の二つがあるが,通常はこれらを組み合わせて使用する.
例えば,日本のディジタル自動車電話システム注については,八つの状態を持ったバッド・フレーム・マスキングが定義されている(図5).このような方法を使うことにより,短期間のエラーでは前の音にミュートをかけながら状態を遷移し,人間の耳に対してあまり違和感なく無音または正常な次の音が聞こえるようになる.
図5の例はARIBで定義されているものだが,「理想的な電話」に対する考えかたはメーカごとに異なる.例えば,あるメーカは前の音を残さずにすぐに無音にすることで,音の連続の違和感をなくしたほうがよいと考える.一方,別のメーカは,無音になるまでの時間を長くとったほうが音のとぎれが少なく,感度が良いように感じるかもしれない.このため,メーカの考えに沿った味付け(バッド・フレーム・マスキング)が行われている.
なお,ここで説明した音声転送に適したエラー制御とバッド・フレーム・マスキングは,音声の符号化/復号化とともにDSP(ディジタル信号処理プロセッサ)で実現される場合が多い.
注;ARIB(Association of Radio Industries and Businesses;社団法人電波産業会)RCR STD-27として,ディジタル自動車電話システムの通信規格が定められている.
〔図5〕バッド・フレーム・マスキングの例
日本のディジタル自動車電話システムで定義されているバッド・フレーム・マスキングを示す.この例の通信規格はARIBで定義されているが,実際には,状態の数やミュート時のミュート量について,それぞれのメーカが考える最適な値に設定されることが多い.