つながるワイヤレス通信機器の開発手法(1) ――仕様を理解する
●階層構造を頭に描きながら仕様を理解する
現在,世の中に出ている通信規格の仕様書の大半はOSIの7階層モデルに準拠している.図3に示すように仕様書は階層構造に分けられていることを念頭において,自分がどの部分を調査,勉強するべきかを把握することが仕様理解の近道となる.図は,仕様を理解するうえでの大きな手助けになる.仕様調査や仕様理解の初期段階においては,おおいに参照することを推奨する.
ただし,図は理解を手助けするものであって,仕様のすべてを記述しているものではないことを認識する必要がある.仕様書に出てくる図だけを見て仕様を理解したと思い込み,図に沿って機器を開発して,後から機能が足りないことに気づく場合がよくある.
仕様書の中の図というのは仕様の代表的な一部の機能を抽象化,概念化して書かれている場合が多く,詳細は文書で記述されている.また,図というものは文書に比べて変更に手間がかかるので,文書は修正されているが図は昔のバージョンのままということもよくある.このような場合も図をうのみにして開発に行き詰まることがある.「図を見るな」とは言わないが,仕様書の図はあくまでも概念図であり,仕様のすべてではないということを忘れないでほしい.
理解を手助けする図をいかに早く見つけ出すかも短い時間で仕様を把握するためのコツである.例えば,Bluetoothの場合,上位レイヤに相当するホスト側と下位レイヤに相当するホスト・コントローラ側の二つに分かれるが,先にも書いたとおりそれぞれのレイヤの機能は別の章(Specification of the Bluetooth System Part B,C,H)に記述されているので,その関係を把握することが困難である.
しかし,実はAppendix IXにMessage Sequence Chartとして,ホストとホスト・コントローラのやり取りが図でわかりやすく示されている(図4).つまり,ホストとホスト・コントローラのメッセージのやり取りを知るためにはSpecification of the Bluetooth System Part B,C,Hを読む前にAppendix IXの図を見ておくと短い時間で仕様を理解することができる.これは一例であるが,理解を助ける図を少しでも早く見つけて仕様を把握するとよい.