つながるワイヤレス通信機器の開発手法(14) ファームウェアを設計する(その2) ──エラー制御と高周波制御を実現する方法
● 基地局連動型では10倍精度の高い周波数が得られる
携帯電話の基地局は,通常,携帯電話の10倍~数十倍の精度の水晶発振回路を使用している.このため,基地局連動型の周波数制御を行うと,携帯電話単体よりも10倍近く高い精度の周波数を得ることができる.
基地局と携帯電話の周波数精度の差は,機器のコストや規模,動作環境に起因する.携帯電話側は基地局に比べて多数あるので,機器のコストも規模も小さく抑えなければならない.また,周波数の精度は温度に左右されるため,さまざまな環境で持ち歩く携帯電話に比べて,建物の中に収容される基地局は発振周波数の精度を高くできる.
しかし,携帯電話と基地局の間の電波伝播路においてはノイズなどの劣化要因があるため,基地局連動型の周波数制御を行っても携帯電話の周波数精度を基地局と同じにすることは難しい.そこで,このような劣化要因を小さくするためにファームウェアを用いる.取り込んだ周波数測定結果をそのまま補正情報として発振回路に与えるのではなく,平均化した誤差情報をもとに補正情報を生成する.これによって,ノイズの影響が少ない補正情報を発振回路に与えることができる(図12).なお,誤差情報が大きいときは短い周期で大きな補正情報を与え,誤差情報が小さいときは長い周期で小さな誤差情報を与える.これによって,安定したフィードバックを行うことができる(図13).
図12 基地局連動型の周波数制御
取り込んだ周波数測定結果をそのまま補正情報として発振回路に与えるのではなく,平均化した誤差情報をもとに補正情報を生成する.これによってノイズなどの劣化要因を小さくすることが可能.
図13 補正のとりかた
誤差情報が大きいときは短い周期で大きな補正情報を与え,誤差情報が小さいときは長い周期で小さな誤差情報を与える.
参考・引用*文献
(1) Alan M. Davis,松原友夫(翻訳);ソフトウェア開発201の鉄則,日経BP社,1996年3月.
(2) PLL 周波数シンセサイザ「MB1511」に関する富士通のホームページ.http://edevice.fujitsu.com/jp/datasheet/j-ds/j421309.pdf
おおた・ひろゆき
加賀電子(株)
<筆者プロフィール>
20年以上にわたり,通信関連のエンジニア,エンジニアリング・チームのマネージャ,コンサルタントと,技術出身者としてはまっとうな(?)成長段階を経て,現在は電子専門商社にてマーケティング,新事業企画に従事.得意領域はこれまでのGPS,携帯電話,ワイヤレスLAN,Bluetoothに加えて,VoIP技術,テレマティクスとその領域は今でも広がり続けている.