つながるワイヤレス通信機器の開発手法(13) ――ファームウェアを設計する
1.ワイヤレス通信の状態遷移を表現する
表1に挙げたように,通信系ファームウェアは主に低レベル通信制御(制御メッセージの授受,状態遷移制御),エラー制御,高周波回路の制御(周波数設定,送信出力設定,送信タイミング設定)などを行う.これらはワイヤレス通信機器にはなくてはならない機能である.
以下に,これらの三つの機能について説明する.
● 無線通信に必須の低レベル通信制御
通信制御は,Webブラウザに使われるHTTP(hyper text transfer protocol)や,ベースとなるTCP(transmission control protocol)/IP(internet protocol)などの高レベル通信制御と,基地局との接続および接続を維持するための状態管理などを行う低レベル通信制御に分かれる(図1).
図2は,携帯電話の通信制御についてOSIの階層モデルに準拠した形で示したものである.携帯電話の規格では,レイヤ1~レイヤ3の無線通信に必須の機能のみを規定している.それより上,つまりレイヤ4以上の階層については,アプリケーションに準拠した形でそれぞれの携帯電話の機器メーカまたはサービスを提供する事業者が決定し,実装できるようにしている.これらのレイヤについては,特に規定はない.
ここでは,低レベル通信制御はレイヤ1~レイヤ3に,アプリケーション系ファームウェアとアプリケーション・ソフトウェアはレイヤ4以上に相当することとする.
低レベル通信制御は,制御メッセージの受信と現在の状態に基づいて次の状態に移る.低レベル通信制御を行うファームウェアは,図3のようなステート・マシンの機能を備えている.ステート・マシンは,受信メッセージと現在の状態を入力(図3のA)とし,その二つの入力によって次の状態を作り出す.新しい状態になると,次の状態遷移に備えて現在の状態をフィードバックし,必要な場合はその状態に応じた送信メッセージを出力する(図3のB).
〔図1〕通信制御
通信制御は,アプリケーション・ソフトウェアに近い高レベル通信制御と,基地局との接続などを行う低レベル通信制御に分かれる.
〔図2〕携帯電話の階層構造
携帯電話の規格では,レイヤ3までしか規定されていない.
〔図3〕低レベル通信制御のステート・マシン
低レベル通信制御は,制御メッセージの受信と現在の状態に基づいて次の状態に移る.