組み込みプロセッサの最新動向 ――ヘテロジニアスなマルチプロセッサ構成が主流に
●まずアプリケーションありき
ここまで述べてきただけでも,混沌としてひと筋縄ではいかない現在の組み込み向けプロセッサの現実を感じていただけたのではないでしょうか.そんな混沌とした状況をあえてひと言で,大きくくくるとしたら,それは「まずアプリケーションありき」ということではないかと思います.
当然じゃないか,と思われるかもしれません.しかし,かつては,まずアプリケーションありきとは言いながら,実は使えるハードウェアの制約が暗黙の前提として存在し,それに合わせてアプリケーションを開発するというスタイルだったのです.そんな環境のもとでシステム構成を規定する最大の制約がプロセッサであり,逆説的に言えば,それがためにかつてプロセッサは輝く主役だったのです(図4).プロセッサを決めればシステムの全体像はおのずと落ち着くべきところに落ち着いたのですから.自分がプロセッサ屋のくせにこんなことを言うのも何なのですが,これはシステムにとって望ましい姿ではありません.
アプリケーションそのものが組み込み向けプロセッサのシステム構成を決めるべきなのです.幸い,現在は徐々に技術が進歩して「まずアプリケーションありき」という当然のことを,何とか行えるような環境が整いつつあります.当面の「理想の姿」は,使用条件の制約を与えたうえでアプリケーション・プログラムをコンパイルしたら,そのプログラムの実行プラットホームとなる最適なハードウェアとそのプラットホーム上で動作する最適なソフトウェアの双方が得られる,というものでしょう.こうなると,ソフトウェアとハードウェアの垣根はなく,LSIとボードとソフトウェアが混然一体となってきます.そうなるのは,そう遠い将来ではないと考えています.しかし現段階では,そこへ至る種々の要素技術は進化しつつも,まだそこまでは到達していません.