ARMコアの出荷が10年で16倍に成長,コンピューティングの主役はパソコンからモバイルへ ―― ARM Technology Symposium 2012 Japan
CPUコアやGPUコアなどのベンダである英国ARM社の日本法人アームは,2012年12月6日に東京・品川の東京コンファレンスセンター品川で,顧客向けの講演会兼展示会「ARM Technology Symposium 2012 Japan」を開催した(写真1).講演会は,午前の全体講演(キーノート・スピーチ・トラック)と,午後の技術講演(テクニカル・トラック)で構成される.展示会は,会場ロビーにてテーブルトップ形式で実施された.ここでは午前の全体講演と,展示会の概要を報告する.
●10年でARMコアの出荷数量が16倍に急成長
午前の全体講演ではまず主催者を代表して,アームの代表取締役社長をつとめる西嶋 貴史氏が挨拶した(写真2).ARMのこのイベントは毎年秋に東京コンファレンスセンター品川で開催されている.この会場での開催は2003年から始まり,2012年の今年で10回目になると説明した.そして2002年のARMコアの出荷数量が4億7,500万個であったのに対し,2011年のARMコアの出荷数量は79億個と,16倍を超える数量に急成長したことを報告した.開発企業であるARM社の期待を超える伸びを見せたという.ARM社は数多くのパートナ企業と協業することでARMコアの普及を促してきた.ARMコアの出荷数量がこれほどまでの伸びを見せたことには,パートナ企業の努力が大きく寄与しているとした.
それから西嶋氏は,2012年に発表されたCPUコアとGPUコアを紹介した(図1).CPUコア3品種とGPUコア4品種が今年,発表されたという.
続いてARM社(本社)で最高執行責任者(COO)をつとめるGraham Budd氏(写真3)が,キーノート・スピーチを行なった.Budd氏は,コンピューティング・デバイスの主役がパソコン(PC)からモバイル機器に代わったとの認識を示した.出荷台数ベースでみると,スマートフォンやメディア・タブレットなどのモバイル・コンピューティング・デバイスの数量がパソコンを上回るようになった.社会にとっての主流のコンピューティング・デバイスはモバイルになり,半導体のけん引役もモバイルに変化したという.
過去5年における変化は恐るべきものがあったとする(図2).4年前にはTwitterは存在しなかったし,Facebookのユーザ数は1億人にとどまっていた.3年前にメディア・タブレットを利用していた米国の成人は2%に過ぎなかった.今年(2012年),ロンドンで開催されたオリンピックは初めての「ソーシャルな」オリンピックになった,とBudd氏は述べた.オリンピックに関するコンテンツの視聴者の40%~50%は,スマートフォンを通じてコンテンツを閲覧したという.
また,コンピューティング・デバイスの企業ユーザの71%は個人で所有するモバイル・デバイスを持ち運ぶ,「BYOD(Bring Your Own Device)」と呼ばれる利用方法に移行することを考えており,2014年には社員1名が平均して3台のコネクテッド・デバイス(インターネットに接続されたコンピューティング・デバイス)を使用するようになる,との見方を示した.
●制御機器の開発はASICベースから汎用CPUベースへ
それから,制御機器メーカのオムロンでインダストリアルオートメーションビジネスカンパニー オートメーションシステム統轄事業部 コントロール事業部 開発センタの所長をつとめる竹内 勝氏がゲスト基調講演を行った(写真4).竹内氏は制御機器のアーキテクチャの変化と,プロセッサに対する要求を述べた.
制御機器(コントローラ)は,かつてはCPUと数値制御/モーション制御に分かれており,プログラマブル・コントローラ(PLC)のエンジンはASIC(ハードウェア),モーション制御のエンジンは高機能ユニット(ハードウェア)という構成だった.いずれもハードウェアのエンジンだった.それが現在では,ソフトウェアがエンジンの主役を占めるようになってきた(図3).PLCエンジンは汎用プロセッサとソフトウェア,モーション制御エンジンはCPUユニットとソフトウェアで実現する.
こうなるとソフトウェア開発の負担が増大し,ソフトウェアの開発期間が長期化する.これを防ぐため,ソフトウェアの開発資産を有効活用できるプロセッサが必要となった(図4).オムロンは3年前にARMコアを採用し,現在ではARMコアをベースとした開発に移行している.ARMコアの採用によりソフトウェアを標準化および共通化することで,ソフトウェアが再利用しやすくなり,製品開発では派生品を開発しやすくなったという.