歴史的に初めて時速100kmを達成した伝説のEV「ジャメ・コンタント」を再現 ―― 日本EVクラブがキット化,組み立てセミナを開催
●富士スピードウェイの近くの工場で組み立て
セミナ会場は,東名高速の御殿場インターチェンジを降りて車で15分ほどのとある工場内だった.どうして,こんな不便なところで...と思ったが,着いたら理解できた.この場所は「富士スピードウェイ」の近くにある.そこで走らせるレーシング・カーや実験車両を整備,あるいは修理するための工場が,この近辺には多いらしい.部品が急に必要になってもその場で作ってくれるので,いざという時に便利である.
工場の一角に直方体のシャーシが3台並んでいるのが目に入る.ステンレス製なのだろう.シャーシがまぶしい.これがジャメ号である(写真5).各シャーシの周りには4~5人の受講者が集まって作業を行っていた.シャーシの中には電装部品がすでにきれいに収まっていた.まだ,タイヤは付いていなかったが,サスペンションは見える.ハンドルも付いていないが,インパネ(計器パネル)はシャーシにくっついている.モータは昨年の試作車とは違う高級そうなものが使われていた(写真6,写真7).
傍らで日本EVクラブ代表の舘内 端 氏が作業を見守っていた.「順調そうですね.もう基本的なところは組み終わっていますね」,と質問してみたところ,
「夜までに終わればいいのだけれど,これからがたいへんになるかもしれない」とのこと. 舘内代表によると,「価格が価格なので,多くは企業が社内の技術研修用として購入した.組み立て作業は2日で1クールとして何回かに分けて行っている.先週は第1クールで2台,今週は昨日から第2クールで3台を組み立てている」(舘内氏)
という.
●1000点を超える部品数,組み立ては「たいへん」!? それとも「楽しい」!?
今回組み立てているのは,1台がある大手企業のチームで,もう1台が異業種の中小企業2社による混成チームだった.後者のチームの一人に,なぜジャメ号を作ることになったのかを聞いてみたところ,
「当社は特殊なハーネスを自動車メーカに納めている.すぐEVそのものを作る仕事にかかわることはないと思っているが,いつかEVの時代に移ると思うし,その時代にわれわれのような中小企業がどのような形でEVにかかわり合えるのかを少しでも早く知っておこうと思った」
ということだった.また,組み立て作業の感想を聞くと,
「ハーネスを作っているが,その仕事とはまったく異なる.とまどうことも多いが,これも勉強.部品数も多いし,作業もたいへんだが,楽しくやっている.なんとか今日中に動かせればいいのだが...」
という回答だった.
残りの1台は日本EVクラブ所有で,今回実習の指導を行っているチームのスタッフが組み立てているのだという.指導の片手間に作っているようにも見えるが,進捗は早い.その中心にいた設計者の水嶋氏に部品点数について聞いたところ,
「全部品点数は正確に数えていないが,1000は超えているだろう.設計図面だけでも200枚近くあるから...」
とのこと.水嶋氏は,日本EVクラブの設立初期からのメンバで,昨年,これまでの本業だった飛行機の設計会社を辞めて自動車の設計会社を起業したという.飛行機設計から自動車設計への転身とは少し驚いた.
「私は1970年生まれで,スーパーカーに憧れた世代.子どもの頃から,将来自分でクルマを作ってみたいと思っていた.飛行機の設計というとかっこいいと思われるかもしれないが,私としてはクルマの設計のほうが楽しい.そして今回,ジャメ号の量産設計を行うことになった.駆動系の回路設計は,電子系に詳しい東京工業大学の院生の吉野文和さんにサポートしてもらった」.
作業は,アップライト(タイヤのハブを支える部品)やハンドルが取り付けられ,急にクルマらしく見えるようになってきた.4個のアップライトには, それぞれ本格的なディスク・ブレーキが付いている.これらには,トヨタ車体のコムスやダイハツの軽自動車の部品も使われているらしい(写真8,写真9).部品の選択・調達も苦労したに違いない.