静岡・エコパに学生が製作した76台のフォーミュラが集まる ―― 自動車技術会が「全日本学生フォーミュラ大会」の概要を発表

真野もとき

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2012年8月10日

●EVの本大会が2013年からスタート

 学生フォーミュラ大会は,もともとエンジン車の大会だったが,「EVにもチャレンジしよう」という動きが欧州から起こった.イタリアで2007年から,ドイツおよび英国で2010年から,EVのフォーミュラ大会が行われている,米国も2013年から本大会を行うと発表している.

 日本では2007年から,「学生フォーミュラEVプレ大会」を毎年行っていて,2013年から本大会へ移行すると発表している.日本のフォーミュラEVの規約は,おおむねドイツ大会の規約に準拠している.最大85kWまでのモータを搭載した1人乗りのフォーミュラ・カーで,搭載モータ数や回生エネルギーの制限はない.

 ガソリン車のフォーミュラ開発では,エンジンが大きなポイントとなっている.一方,EVではモータの開発,インバータの開発,そして電池系の開発が必要であり,そこではエレクトロニクス系技術のスキルをもった学生の参加が不可欠だが,こうした人材の育成は進んでいない.大学は縦割り社会で,機械系の学生とエレクトロニクス系やコンピュータ系の学生がコラボしにくい状況があるらしい.とはいえ,今やガソリン・フォーミュラでもエレクトロニクスへの依存度は高いのだが,そこは「企業に開発をまかせるところ」と思われているのかもしれない.そもそもエンジンとモータとでは,開発プロセスが異なる.

 この学生フォーミュラEVの課題は,参加チーム数が増えていないことだ.昨年のプレ大会も7チームの参加で今年の参加数と同じだった(写真3).まだ時期が早いからだとも思うが,説明会直前の7月31日~8月5日に開催されたドイツの学生フォーミュラ大会(FSC:Formula Student Combustion / FSE:Formula Student Electric)では,内燃機関クラスに78チームが,EVクラスに32チームが参加していて,EVクラスの参加比率が急激に高まっているという.学生フォーミュラEVの参加数だけが日本のEV技術の将来を示しているわけではないが,5~10年後の技術者の数を占うバロメータにはなるかもしれない.ある自動車会社によると,入社面接の時に「御社に入社してEVをぜひ開発したい」という技術系学生は多いらしいが,大学時代に「EVをつくるぞ」と意気込む学生がもう少し増えてほしい.

 

写真3 2011年EVプレ大会の静岡大学EVチームのフォーミュラ・カー

 

 

●まだ注目度は低い

 また,学生がせっかく頑張って良い成績を上げても,「鳥人間コンテスト」や「ロボコン」のように世間の話題に上ることが少なく,学業評価や就活にもそれほど有利に働いていないという.実際,説明会に参加していた報道関係者の数はそれほど多くなかった.

 この大会のスポンサはトヨタ自動車や日産自動車,本田技研工業といった大企業なのに,なぜ注目されていないのだろう.大会アドバイザとして参加している関係者によると,「このエコパの会場に豊田 章男社長,カルロス・ゴーン社長,伊東 孝紳社長といったトップが集まればいいのだが...」と述べていた.そのとおりだと思うが,それができない理由こそが問題なのだとも思う.

 筆者が昨年,この大会を取材したとき,なんとエキサイティングな大会だろうと感じた.車検場や試走コースでは,思わぬトラブルが続出する.現場では,起こるはずがないことが起こるものである.このとき,どのようにしてその原因を究明し,対策を施すのか.それも決められた時間内に,周りにある道具と部品で解決する,という制約の元で.問題が解決して動いたときの喜びは"ものづくり"のだいご味と言える.外から見ているだけでも感動を味わうことができる(危険なので,一般の観客はピットや車検場で見ることはできない).

 当事者の学生はもっと大きな感動を味わっていると思うが,それをどのようにほかの人と共有できるかが重要なのかもしれない.学生にとっては1年間の苦労の成果をアピールする晴れの舞台である.しかしエコパのレース会場には小さい観客席があるものの,一般の観客が見に来ることは少ない(写真4).

 日本では平日(月曜から金曜まで)に開催されている大会だが,ドイツのFSC/FSEは火曜から日曜にかけて開催されており,メイン・イベントのレースは土曜・日曜に行う.一般の観客が見に来やすいように,日本でも土曜・日曜に開催するべきだと思う.

 

写真4 レース会場と観客席(本来エコパの臨時駐車場であるところを使っている)

 

 

●主役は学生

 この大会に対する自動車業界の期待は高い.改善点はいろいろあるが,多くの大人たち(大会スタッフやボランティア)も努力していると思う.その一方で,大人たちが頑張れば頑張るほど,本来の大会の趣旨からはずれていく心配がある.主役は,あくまでも学生である.

 フォーミュラ・カーは,それがガソリン車であれEVであれ,エレクトロニクスやコンピュータの制御なしでは動かない.今後は,「全体を見通すことのできるリーダ格の学生をどう育てるか」が問題になるという.

 筆者は,"フォーミュラ・カーづくり"で頑張っている学生たちにエールを贈りたい.今年もエコパに行き,チェッカ・フラグが振られるのを見たいと考えている(写真5).皆さんも時間があれば,ぜひエコパへ!

 

写真5 2011年EVプレ大会でチェッカ・フラグを受けた静岡理工科大学のEV

 
 

   

 

 

 

●参考URL
(1) 全日本学生フォーミュラ大会のWebサイト. 
(2) 真野もとき;EVチームのピットを探せ! ―― 第9回 全日本 学生フォーミュラ大会(1) ,Tech Village,2011年11月.
(3) 真野もとき;EVフォーミュラ,車検との戦い ―― 第9回 全日本 学生フォーミュラ大会(2),Tech Village,2011年11月.
(4) 真野もとき;EVは速くて当たり前?! ―― 第9回 全日本 学生フォーミュラ大会(3) ,Tech Village,2011年12月.
(5) 真野もとき;EVのエンデュランスを見た! ―― 第9回 全日本 学生フォーミュラ大会(4),Tech Village,2011年12月.

 

 

まの・もとき

 

 

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