みんな集まれ!「EVミニカート・レース」2014年5月に開催!    ――手巻きモータと制御回路&ソフトの技術を競う

CQミニカート推進委員会

疾走するCQ EVミニカート(2013年7月,於:大潟村ソーラースポーツライン,WGC2013でのデモ走行)

 

「EVカート」をつくる面白さ

 新たにEVミニカートのレースを来年春に行うことになりました.このレースは, カートの運転技術を競うというより「モータ制御技術を競うレース」といったほうがよいのではないかと思います.

 「EVカートなので,モータとコントローラと電池をつなげれば誰でも動かせる.重要なのは部品の選定で,あとはシャーシとボディのデザインだ」と思われている方も多いかもしれません.しかし,モータ制御は意外に(?)奥深く簡単ではありません.しかも,モータのコイルから自由に巻けるとなると,難しくなるというより,面白くなるのではないでしょうか.

 モータ制御技術のレースとなれば,パワー・エレクトロニクス/アナログ技術が得意な方が上位にたつ可能性が高いように思います.今ではモータ制御もマイコンで制御するのが当たり前ですから,マイコン・ソフト開発が得意な方が上位にくるかもしれません.

 もちろんEVカートもクルマですから,ドライバの趣味に合わせたクルマ作りが重要です.技術的な観点で見れば,速いクルマを作るか,加速のいいクルマを作るか,航続距離の長いクルマを作るか,坂道に強いクルマを作るか….レースに勝つクルマ作りも面白いですが,自分の好みのEVミニカートを実現し,そして自分で乗ってそのとおり実現できたか確かめることができるというのも面白いように思います.

写真1 試走中のCQ EVミニカート(栃木のカート場)  

 

EVミニカート・レースの概要 ワールド・エコノ・ムーブ大会の中で開催~

 それでは 「Econo Move Minikartエコノ・ムーブ・ミニカート)」というレースを紹介します.秋田県の「大潟村ソーラースポーツライン」で,2014年5月4日,5日に開催します.同時に行われている2時間での走行距離を競う省エネEVレース「World Econo Move(ワールド・エコノ・ムーブ)」(第19回大会)の合間に行われます.

 なお,エコノ・ムーブ・ミニカートでは,全長25kmあるソーラースポーツラインの一部,1.1kmのショート・コースを使用し,競技時間30分での周回数を競います.
本戦の前日の4日にタイム・アタックを行います.これは1.1kmのコース1周をどれだけ短時間に走行するか,その速度を競うものです.この順位で,5日の本戦のスタート位置(スタート・グリッド)が決まります.

 

写真2 ワールド・エコノ・ムーブ大会の様子(大潟村ソーラースポーツライン)


 

レース参加資格

 このレースは,
「CQ EVミニカート・キット」ミニカート・ボディ写真2
「CQブラシレス・モータ&インバータ・キット」ブラシレス・モータ写真3
を使うことが決められています.ドライバは高校生以上の年齢の方です.

 CQ EVミニカートは,アッカーマン方式のステアリング機構をもつAタイプと,前輪シャフトとハンドルが直結しているセンタ・ピボット方式のBタイプの2種類がありますが,どのタイプでも参加できます.
安全性の低下を招く改造は禁止されますが,ボディに座席シートやカウル(フロント部を覆う風防)などを加えることは認められます.ただし,他の競技参加者の走行を妨害する車体は認められません.

写真3 CQ EVミニカート(完成姿) 下:Aタイプ(アッカーマン方式),上:Bタイプ(センタ・ピボット方式) 

 

 写真4 CQブラシレス・モータ&インバータ・キット(完成姿)

 

レースに向けて工夫のしどころ

 さて,このミニカート・レースは,モータ制御技術を競う競技だと述べましたが,それはどういうことでしょうか?

 本戦の前にタイム・アタック(いわゆる予選)では,単純に速度の勝負となるでしょう.タイム・アタックに強いモータ制御はどうすればいいでしょうか? 高速に回転するモータがほしいですね.とはいっても,高速回転できるモータでも負荷が掛かって,ストップ状態から最高速に達するのに時間がかかるのであれば,最高速に達する前にゴールになってしまいますね.

 本戦の30分のレースでは,規定の鉛電池がもつエネルギーをどううまく使うかだと思います.電流を流しすぎると,速度は出るかもしれませんが,電流の二乗に比例する熱損失が増えてしまい,電池をあっというまに使い切ってしまうかもしれません.こうした対策には,モータ制御のハードウェアとソフトウェアの技術が必要だと思います.

 もちろん,エレクトロニクスの知識だけでも不十分ですよね.もう少し考えてみましょう,

(1) 空気抵抗を減らす~意外と手強い“風”~

 低速走行の場合は,空気抵抗より転がり抵抗の影響を受けるといわれています.タイヤの転がり抵抗を下げる工夫も効果的です.もし時速30kmを超える速度で走ることになれば,転がり抵抗より空気抵抗のほうが大きく影響するといわれています.優勝を狙うのであれば,流線型のカウル(車体長2.5mまでOK)を付けると空気抵抗はかなり減らせます.ただし,カウル分の重量も増えるので熟考が必要です.レース会場の秋田県大潟村は,強い風が吹く場所としても有名なようです.レース当日の気象状況も大きくレースを左右するかもしれません.


写真5 空気抵抗は無視できない (低い姿勢でも効果は大きい! 大潟村ソーラースポーツラインに於いて)



(2) 直進性能,蛇行性能を変える ~車輪周りの調整法は~

 またアッカーマン方式のAタイプの車体では,前輪のホイール・アライメントが調整できるようになっています.つまり,クルマのトゥー角(車体の上から見て二つの前輪を内またあるいは外またにする角度)とキャンバー角(車体の前から見て二つの前輪が‘ハ’の字または‘逆ハ’の字になる角度)などの調整が可能です(図1).これらによって,直進性能や蛇行性能を調整できます.コースの状況を考慮しながら調整してください.

 

図1 ホイール・アライメントのトゥー角とキャンバ角


 

写真6 ステアリング機構 左;アッカーマン方式,右:センタ・ピボット方式

  

(3) 高速モータ?の作り方 ~モータのコイルをどう巻くか~

 このカート・レースでは「CQブラシレス・モータ」を使用する規定があります.このモータは,12極/18スロットのアウタ・ロータ型で,ステータ部のコイルは自分で手巻きします(写真7).つまり,用途に合わせてモータ・コイルの巻き方を自由に決めることができます.では,EVではどのようにすればいいのでしょうか?

 モータ・キットには1mm径のエナメル線(マグネット・ワイヤ)が付属しています.このエナメル線を使えば,1スロット当たり最大27ターンまで巻くことができます.優勝を目指すのであれば,巻き数を多くすればよいのでしょうか.

 CQ出版では,このモータ・キットを製作するセミナ(2日間コース)を過去7回実施し,多くの方がここで製作されましたが,巻き方はそれぞれ自由です.そこで,完成後に動かしてみると,24V無負荷だとして,1スロット当たり,

・20ターンの場合: 1000rpm
・10ターンの場合: 2000rpm
・5ターンの場合: 4000rpm

となっていました.コイルの巻き数が多くなると,回転数は下がるのです.巻き数が多くなると電磁石の磁力が強くなるから回転数は上がる,と思っていた人もおられるかもしれませんね.モータは発電機という性格もあるので,コイルの巻き数が多くなると発電能力が高まって,つまり逆起電力が増えて,モータの電流は流れにくくなるのです.

 それでは,優勝を狙うためには巻き数を減らして高速モータで臨めばいいのでしょうか.1ターンが最も速いクルマができそうです?でもそう単純にはいきません.

 先ほどのモータに投入する電流を測定してみると,コイルの巻き数が少ないほど(高速で回るモータほど)大電流が流れているのです.巻き数が少ないと電気抵抗が小さくなるので当然ですね.速く回っても電池がすぐに消耗しては,レースには勝てません.

 また,モータには18スロット(コイル)がありますが,3相制御するので1相当たり6個のスロットがあることになるます.それら6個のコイルを全部直列に接続するのがいいのか,3直列2並列にするか,2直列3並列にするか,あるいは6並列にするかが選択できます.回転数はもちろん6並列のほうが速いですが,電気もたくさん食います.

 それぞれ一長一短ですが,コイルの巻き方でモータの仕様は大きく異なります.また,エナメル線は1mm径にこだわる必要はなく,どんな太さ形状でも選択自由です.

 

写真7 コイルを手巻きするのは意外に楽しい! たくさん巻けば速いモータになるわけではないが…

 

(4) モータを高速に回すハードウェア

 モータ制御が難しい理由の一つは,負荷があるということです.その負荷が,一定ではなく変動すると,さらに面倒です.モータに負荷がかかると,回転が抑制されると同時に電流も多く流れます.流れすぎると電圧降下を生じ,ますます期待する動作が得られなくなるかもしれません.

 また,電流を流しすぎると,モータ駆動ドライバのMOSFETが発熱し壊れるかもしれませんし,モータのエナメル線が燃えるかもしれません.少なくとも電流は制限するようにしなくてはなりません.ヒューズやブレーカだけでは,レース途中で動かなくなるだけです.

 単純に考えると,MOSFETにどれだけ電力(電圧一定と考えると電流)を入れることができるかで,使えるエネルギは決まるはずです.MOSFETは,電流を流すと発熱し,ある一定温度を超えると壊れてしまいます.そこで,放熱対策を施せば多くの電流を流すことが可能になります.また,電流をもっと流せるMOSFETに変更する方法があります(基板では少し大きなTO-3PサイズのMOSFETも装着できる).

 なお,競技規約では,ハードウェアの規定はありません.モータ・キットに付属するドライバ基板ではなく,独自のドライバ基板を使ってもいいのです.また,電気二重層キャパシタを挿入して回生エネルギの回収効率を高める方法もありです(レース前にキャパシタにチャージすることは禁止です).

 「ベクトル制御」で挑戦したいという方もおられるかもしれません.そうすると,ブラシレス・モータ&インバータ・キットの基板には電流センサが付いていませんので,追加する必要があります.(このキットの基板に電流センサを付ける方法は『エレキ工房No.3』に紹介されています)

 

写真8 試しにモータ・キットに付属しているハードとソフトだけでもEVカートは予想以上に走りました!

 

(5) モータを高速に回すソフトウェア

 CQブラシレス・モータ&インバータ・キットには,インバータ基板とV850搭載の制御基板があり,ボリュームで回転数を変化させる(PWM制御のデューティ比を変化させる)プリミティブなソフトウェアが用意されています(Cの全ソース・コード付き).しかし,ミニカート用のソフトウェアは用意されていません.カート用の最適なインバータ制御を探ったり,電流の制限を設けたりするソフトウェア,回生するソフトウェアは,どうかご自分で開発してください.モータ&インバータ・キットには,マイコンの開発環境も付属しています.また,モータ制御のマイコンをV850から他のマイコンに換えるのもOKです.

 ちなみに,EV用マイコン・ソフト開発の自信がないという方も心配は不要です.CQブラシレス・モータ&インバータ・キット(+初期搭載のソフトだけで)とCQ EVミニカート・キットをそのまま組み上げても,カートを動かすことはできます(ただし,コイルの巻き数を多めに).速度も平地では5-6km/hほど出るかもしれません.ただし,少しの坂道で発熱します.さらに,MOSFETをパワーアップし,そこにヒートシンク(放熱フィン)を付ければ,さらに速度を上げることができ,緩やかな坂道は登れるかもしれません.EV用のソフト開発は試行錯誤しながらゆっくり行ってもよいでしょう.

電池について

 CQ EVミニカート・キットには,12Vのシールド鉛電池(12V,8Ah)が2個付属しています.レースでは,公平性を保つために,大会事務局からイコール・コンディションの12V,7.5Ahの鉛電池(古河電池FPX1275)が2個供給され,タイム・アタックおよび本戦とその電池を使います.支給された電池の途中交換や充電は認められませんので,エネルギの使い方を注意しなければなりません.また,EVミニカート・キットに付属する電池とは異なることも注意が必要です.

 なお,競技用と同じ電池を使って平地での試験走行をしたところ,平均12km/hで40分以上走行できました.

 また,前述したように電気二重層キャパシタの搭載なども自由です.これを使うと回生エネルギーの回収効率は上がる等の利点があるかもしれません.こうしたキャパシタ等の搭載時は,競技用電池装着前にチャージしてはいけないことになっています.

競技規約

 レースに参加するためには,カートにバックミラーを付けなくてはならない等の細かい規約を遵守しなくてはなりません.暫定版の協議規約をここからダウンロードしてください.

2014年の第1回大会は…

 今回は第1回の大会なので,おそらく参加台数は少ないと思います.今でも手作りEVのレースは少なくありませんが,EV用ソフトウェアの開発にチャレンジした人はまだまだ少ないようです.今回の30分のレースで,EVミニカートの平均速度が20km/hから30km/hを実現できれば,上位入賞はまちがいないかもしれません.ひょっとして優勝を狙えるかもしれません?

試走場所をいくつか用意できるかも・・・

 都会ではなかなかEVカートを走らせる場所がありません.そこで,大会前の3月から4月の土・日の何回かで,(今回は首都圏だけですが)試走できる場所をいくつか用意したいと考えています.続報をお待ちください.

 

写真9 面白いよ(7月のソーラーカー大会WGCに参加した高専生,大潟村ソーラースポーツライン ) 

  

 写真10 Good!(7月のソーラーカー大会WGCに参加した外国人,大潟村ソーラースポーツライン )

 

内外の関連記事

CQ EVミニカート・キットの情報

ワールド・ビジネス・サテライト, TV TOKYO

この番組の「トレンドたまご」のコーナで取り上げられました(2013年7月放送).

●facebookルネサスエレクトロニクス

12月6日から CQ EVミニカート開発ストーリーが始まりました.モータ・キットとEVミニカート・キットの製作の様子が紹介されています!!

 ● PingMag

 PingMag|カー・オブ・ザ・イヤー2013の記事中に登場しています.おこがましいですが,EVミニカートが(格好良い!写真で)最後に取り上げられています.

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