インタラクティブ・アートとヒューマン・インターフェースの潮流 ― 日本科学未来館 メディアラボの展示から

鈴木 真一朗

●工学+芸術 = デバイス・アート

 前出の岩田教授は,メカトロニクスや素材技術を駆使し,テクノロジーの本質を見せる芸術表現を"デバイス・アート"と名付けました.デバイス・アートは,デバイスそのものが作品の表現内容になっているという特徴を持っています.ツールがコンテンツになっているともいえます.そのため,いずれの作品もその価値を十分に伝えることは論文などでは難しいことが多く,体験して初めてその価値が表出します.作品はおのずとインタラクティブになります.これまでのアートの多くは,鑑賞した上でその意味を解釈するのに見る側の自由があったのに対し,デバイス・アートは体験を通して伝達され,意味を解釈する以前に体験そのものが少しずつ異なっています.それゆえ,「私はこうだった,あなたはどうだった?」とよりオープンなコミュニケーションを誘起させるのも大きな特徴です.

 現在の常設展示編注2零壱庵」では,第1期から第8期までの展覧会で人気の高かった作品を茶室の見立てとともに見ることができます(写真10).上記のキーワードに興味があれば,日本科学未来館に足を運んでみてはいかがでしょう.

編注2:零壱庵は,2011年6月11日~2013年春の2年間,公開される予定.

 

写真10 零壱庵

 


●メディア・アートの未来

 体験者の行動をセンシングし,人間の感覚器をハックするような作品は,センサ技術と人間の身体への理解が進んだことによって実現されてきました.もう一つ重要なのは,近年のプロトタイピング技術の躍進がもたらした試行錯誤の容易さです.

 3Dプリンタやレーザーカッタなどが安価かつ小型化したことによって,制作段階でこれまでの何十倍もの試行錯誤をより容易に行えるようになりました.作品のクオリティが上がることによって発信されるメッセージはより強いものとなります.また,試行錯誤の間に新たな着想を得ることも多いでしょう.さらに,多種多様なハードウェアが使われるということは,普及に伴って大きな産業となるポテンシャルを秘めているともいえます.そして,デバイス・アートで培われた技術が,未来のヒューマン・インターフェースへの進歩につながっていきます.直観的なインターフェースの直観とははたして何なのか,アートの分野で拓かれた新たな表現や私たちの身体性がどんなインターフェースとして具現化するか今から楽しみです.

 これだけでもとても素晴らしいことだと思いますが,筆者がさらに期待するのは,これらの技術的背景の変化によって誰もがアーティストになれる未来です.未来館には年間100万人の来館者があります.中には展示解説の字を読むのもおぼつかない小学校低学年の来館者もいます.しかし,彼らが体験を通じて現代の先端科学に触れ,その可能性を考え,場合によっては彼らが考えるよりも遙かに簡単に作ることができると知ったら,彼らの目はどのように輝くでしょうか.子どもだけではありません,大人でも発見と驚きを持ち帰る様子を多く目にします.

 一人一人が作る未来,それを実現させる情報科学の最先端に親しみながら触れられるメディアラボは,きっと新しいユーザ・インターフェースのヒントになることでしょう.


すずき・しんいちろう
日本科学未来館

 

※本コラムは,Interface 2012年1月号(特集:ユーザ・インターフェースの基本原則と実践開発)の掲載記事に一部手を加えたものです.

 

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