インタラクティブ・アートとヒューマン・インターフェースの潮流 ― 日本科学未来館 メディアラボの展示から

鈴木 真一朗

 "ドッグイヤー"と称されるように,情報科学分野の更新スピードは実に目まぐるしいものがあります.日本科学未来館(東京・お台場)の常設展示は,数年単位で作り直すことを前提に制作していますが,数年あれば一般家庭の通信基盤はダイヤルアップから光回線に,CPUの周波数はMHzからGHzに変わるのが情報科学の世界です.

 ヒューマン・インターフェースに関する技術に注目すると,それは"人間の理解"や"見立て"が重要であることが分かります.例えば,縦置きのディスプレイ上のカーソルと,手元にある平面上でのマウス操作には人間の脳内で行われるちょっとした座標軸変換が必要です.

 それでは,見立てとは何でしょうか? 例えば,デスクトップ画面に表示されるフォルダは,現実世界における書類を収納する機能と同じイメージをコンピュータの中に見立てたものです(現実のフォルダを見たことがない世代には,その見立てが通じないケースもあるようだが).これらをより自然に理解させるために,Tangible User InterfaceやNatural User Interfaceと呼ばれる技術が生まれていることはご存じの方も多いでしょう.Interface 2012年1月号の特集でもこのような技術の躍進を紹介しています.

 本稿では,日本科学未来館のメディアラボ写真1)に展示されたインタラクティブ作品を取り上げ,ヒューマン・インターフェースのヒントとなりそうなインタラクティブ・アートを紹介します(日本科学未来館については,稿末のコラム「日本科学未来館で空間情報科学を体験」も参照いただきたい).

 

写真1 メディアラボ

 


 メディアラボと聞くと,米国MIT(マサチューセッツ工科大学)のMedia Labを連想する方が多いかもしれません.同館のメディアラボは,「情報科学技術を手にして,自らが世界を変えることができる」を実感してもらうことを目的としています.4ヶ月~半年を目安にして内容を入れ替え,最先端技術を追いかけ続けるシリーズ展示として,2008年4月にスタートしました注1.そもそもほかの科学に比べても,実体がないのが情報科学です.ですから,アート・ギャラリーのように,空間で目に見える形の情報科学の成果を体験できるようにしています.

注1:第1期~第8期までは筑波大学の岩田 洋夫教授による監修で,独立行政法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)による「デバイス・アートにおける表現系科学技術の創成」の成果を中心に展示した.

 以下,2008年4月~2011年3月の第1期~第8期,2011年6月~12月の第9期までのメディアラボの展示内容を紹介しましょう.第8期までは,筑波大学大学院の岩田 洋夫教授による監修でした.第1期ではメディアラボのお披露目としてダイジェスト展示を行いました.第9期は,五十嵐デザインインタフェースプロジェクトによる研究結果を展示しました編注1

編注1:本稿執筆以降に,第10期展覧会「字作字演」(2012年2月1日~6月25日,古堅まさひこ,大日本タイポ組合)が公開された.また現在は,第11期展覧会「フカシギの数え方 The Art of 10^64 -Understanding Vastness-」(2012年8月1日~2013年2月25日,JST ERATO湊離散構造処理系プロジェクト)が公開中である.


『魔法かもしれない』第2期展覧会
 (2008年9月6日~2009年1月6日,八谷 和彦)

 メディア・アーティストの八谷 和彦氏は,アーサー・C・クラークの「充分に発達した科学技術は魔法と区別がつかない」という言葉から,『魔法かもしれない』というタイトルで第2期の展示を担当しました.

 写真2は,第2期展覧会の中でも印象的な「人魚の窓」という作品です.古くから,鏡は異世界への窓として象徴的に使われてきました.本作品では,古めかしい船窓からのぞく水中の様子と,後ろに置かれた鏡が織りなす不思議な空間が神秘的な雰囲気を醸し出しています.鏡越しにのぞいたときだけ現れる人魚に気付いたとき,誰もが我が眼を疑います.手品やマジックであれば,我が眼を疑うよりも先にタネを明かそうとしますが,「人魚の窓」には有無を言わせぬ圧倒感すら漂っています.

 

写真2 人魚の窓

 

 八谷氏は,「自分で考えてほしいからこそ,作品解説を最小限にしたい」とのことなので,本稿でのネタバレは避けますが,要素となる技術の使い方が独創的なだけでなく,作品が空間として構成されているからこそ演出可能となった不思議な「没入感」があります.この没入感は,近代のインタラクティブ・アートを語る上でも非常に重要なキーワードです.


『博士の異常な創作』第3期展覧会
 (2009年1月21日~5月11日,岩田 洋夫)

 インタラクティブ・アートと没入感について,岩田 洋夫教授による第3期展覧会『博士の異常な創作』から掘り下げてみましょう.

 写真3の「フローティングアイ」は,上から覆い被さるようにしてのぞく球面ディスプレイとその頭上に浮かぶ飛行船の二つから構成されています.球面ディスプレイから見えるのは飛行船から見た視界,つまり,自分の姿を上から見た視界となっています.まるで幽体離脱したかのような非日常的な視点を得ることができるのです.

 

写真3 フローティングアイ

 

 この作品では,HMD(Head Mounted Display)的な視野狭窄感と,そこに映し出される頭上から自身を見下ろす第三者的な視点のミスマッチが不思議な没入感を創り出しています.「人魚の窓」とは一見異なる没入感に思えますが,いずれも体験者自身がそこに見えるという共通点があります.

 「人魚の窓」では,鏡の端に垣間見える自分自身の姿が見えるからこそ強烈なリアリティを感じ,「フローティングアイ」では,非日常的な視点から確認する自身の姿によって,むしろ新たな視点へ強制的に適応していく自分を感じることができます.

 没入感の創出はさまざまな分野で試みられていますが,両作品は"空間に存在する自分自身を意識する"ことが重要だと示唆しています.

 

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