1時間耐久に出るコンバートEVたち の巻 ―― 第17回 日本EVフェスティバル2011 (4)
●SCiB専用の超急速充電器を開発
ナンバプレートが「880」なので,なにげなく「その番号に意味はあるのか?」と聞いたら,「8分80%充電だから」とのこと.なんとこの車は,東芝製の新型リチウムイオン電池「SCiB」を搭載しているという.
SCiBは,リチウムイオン電池の顔を持ちながら半分はキャパシタの身体を持っているといえるもので,とても高速に充電できるという特徴がある.EV製作者から見れば,あこがれの電池ともいえるものだ.ただし,SCiBに限らず国産のリチウムイオン電池は,国内の中小企業や個人では入手がほぼ不可能といわれているだけに,ちょっとびっくり.古川氏にさっそくそのことを尋ねてみると,「JFEエンジニアリングさんがSCiB専用の超急速充電器『SuperRAPIDAS』を開発し,その評価用EVとして開発したのがこのコンバートEV.うちで製作しました」とのこと(写真4).
写真4 SuperRAPIDASの給電スタンド
コネクタもケーブルもCHAdeMOと異なる.ケーブルは太い!
そうなんだ.現在,CHAdeMOというEV用の高速充電プロトコルがあり,全国にその充電器の設置が進んでいる.しかし,CHAdeMOではSCiBのせっかくの超高速充電の特性を生かしきれないのだそうだ.充電器やインバータというのは,本当に最高効率の実現を考えた場合,電池やモータに合わせた回路/プロトコルを個別に用意しなければならないという.なるほどね,でも,その急速充電器はどこに?
あ,ありました,向かい側にJFEエンジニアリングのテントが.こっそり,8分で満充電の80%とうたっていたが,「実測値ではどれくらい?」と聞いてみたところ,「実は実測値はもっと良かった.8分85%以上だったが,電池の状態(エイジング)やいろいろな条件もあるので,8分80%ということにしている」とのこと.
もう一つ,「でもこの急速充電スタンドはCHAdeMOスタンド(現在,全国800個所以上ある)より少ないですよね.実際にドライブするときは不便では?」と聞いてみたところ,「もちろん,そのことも考えてCHdeMOのコネクタも付けています.CHAdeMOスタンドで急速充電できますよ」とのことだった.
●EVで航続距離の最長記録を持つ「卑弥呼」
フェアレディの隣のピットにあったのは,日本で10番目の自動車メーカと言われている富山の光岡自動車の「卑弥呼」をEVにコンバートしたものだ(写真5).大阪のTGMYが製作した.クラシック調のこの車は,今回もっとも目立った存在である.TGMYは,このEV卑弥呼の受注生産を開始するという.
写真5 光岡「卑弥呼」,美しいボディ!
これだけ鼻が長いと運転はしずらくないかなぁ...
実は,この母体の卑弥呼もマツダ・ロードスター(NC型)をベースに製作されているものだ.ロードスターよりも重量感たっぷりの車体である.実際,62kWhのリチウムイオン電池を搭載しているとのこと(前出のフェアレディは11kWh).1回の充電で587.3kmを走行する,という市販EV車としての航続距離の記録を持っている.
しかし,美しい車体だ.鼻がともかく長い.クラシック・カーらしい車である.EV化では,この中に電池とインバータが入っているのだろう.忙しそうに準備していた社長の芦田氏に,恐縮だがボンネットを開けてもらった(写真6,写真7).すると,整然ときっちりと収まっていた.ただ,モジュールごとにカバーされていて,中の構造はよく分からない.
写真6 ボンネットを開けてもらった「TGMY EV HIMIKO」
写真7 EVではラジエタの代わりに空冷用ファンがあるんだ!?
開けてもらったお礼をと思い,「中もキレイにまとまっているのですね」と,話しかけると,「そうするのが,われわれの仕事なのだから当然だろう」と突き放されてしまった.
エントリ・リストを見ても,これほどの電池容量を積んでいるものはほかにないので,重量では超ヘビー級だが,優勝候補なのだろう.ただし,この耐久チャレンジは,前々回も述べたように単なる速度レースではないので,予断はできない.