スマートフォンでおなじみの静電容量式タッチ・センサを組み込みシステムに実装 ―― マイコンの周辺機能を利用すれば,追加コストは不要

Jonathan Dillon

tag: 組み込み 半導体

技術解説 2011年4月22日

ここでは,マイクロコントローラを備えた組み込みシステムの入力装置として,静電容量式タッチ・センサを導入する方法について解説する.静電容量式タッチ・センサは,スマートフォンやタブレット型端末などで普及しているユーザ・インターフェースである.マイクロコントローラが内蔵する周辺機能を使ってタッチ・センサの静電容量を計測する三つの方法を説明する.(Tech Village編集部)

 マイクロコントローラ(以下,マイコン)を内蔵した組み込みシステムの場合,最小限のコストで操作ボタンを静電容量式タッチ・センサまたは近接センサに交換できます.このような交換により,システム全体のコストを下げられる場合もあります.美しい外観とスマートな操作性を備えた静電容量式タッチ・ユーザ・インターフェースは可動部を持たず,システムを外部の環境から保護します.複雑な操作パネルを簡単に実現できるので,最新のアプリケーションによく採用されています.

 

1.静電容量方式タッチ・センサ

 これまで,静電容量式タッチ・ユーザ・インターフェースは,その実装が難しいと思われてきた面があります.操作ボタンを使用する多くの既存のシステムでは,静電容量式センサ機能(タッチ・センサまたは近接センサ)を実現するための構成要素をマイコンの周辺モジュールとして内蔵していても,それらのモジュールが実際には使用されていない,ということがよくあります.

 ここでは,システムの既存のリソースに静電容量式タッチ・ユーザ・インターフェースを追加する以下の三つの方法を解説します.

  1.  マイコンが内蔵するA-Dコンバータ(ADC)だけを使用する
  2.  マイコンが内蔵する高精度電流ソースとA-Dコンバータを使用する
  3.  マイコンのI/Oピンに組み込まれた静電容量検出回路と内蔵カウンタ/タイマを使用する

 また,ノイズなどの外乱に対処するためのソフトウェア処理と,静電容量式タッチ機能をシステムのON/OFF操作に使用する際に利用できる省電力手法についても説明します.さらに,信頼性の高い静電容量式タッチ機能を実装するための設計手法も紹介します.

●信頼性と堅ろう性に優れている

 薄い板状の操作パネルを実現する静電容量式タッチ・ユーザ・インターフェースは,外観だけでなく信頼性と堅ろう性にも優れており,広く用いられるようになりました.この方式のユーザ・インターフェースは可動部を持ちません.押しボタンの場合と異なり,接点の摩耗や腐食,機械的故障を生じないため,製品の寿命を延ばすことができます.また,パネル部材を透過してタッチ操作を検出するため,パネルに気密性を持たせることができ,内部の電子回路を過酷な外界の環境から保護できます.また,耐久性にも優れます.

 ただし,静電容量式タッチ・センサでは,機械式の押しボタンのように単純なON/OFF信号が得られないため,アナログ信号を評価する必要があります.

 静電容量式タッチ・センサは,電気的な導通を直接検出するのではなく,パネル部材ごしにユーザの操作を検出します.このため,この方式のタッチ・センサは,タッチ操作だけでなくユーザの接近に反応する近接センサとしても使用できます.

 すでにマイコンを内蔵している多くのシステムやユーザ・インターフェース回路では,静電容量式タッチ・ユーザ・インターフェースの実装に要するコストや部品点数を抑えることができます.ボタン,スライダ,ダイヤルを回路基板上の電極パッドに置き換え,静電容量式タッチ・センサを実装できます.すなわち,ほとんど追加コストなしに信頼性を改善できます.

●静電容量はパネルの材質と厚さで決まる

 ユーザの指先が静電容量式タッチ・パネルの表面に触れると,回路基板上の電極パッドと指先を電極とするコンデンサがグラウンドに対して形成されます.マイコンのI/Oピンの配線パターンと同じように,この電極パッドも寄生容量を持ちます.この寄生容量は環境条件(温度,湿度など)によって変化します.図1に示すように,これら二つの静電容量は並列であるため,同時にそれぞれの静電容量を計測することはできません.

 

図1  センサの静電容量

 

 ユーザの指先によって生じる静電容量は,電極パッドと指が形成する電極の面積,この電極の間に介在するパネルの厚さ,および誘電率によって決まります.

   ...(1)

     Cf:ユーザの指と電極パッドの間に生じる静電容量
     ε0:真空の誘電率 8.85×10^-12
     εr:電極間の誘電体の誘電率
     A:電極の有効面積
     d:電極間の距離

 発生する静電容量が大きいほど,タッチまたは近接の検出が容易になります.式(1)から,ユーザ・インターフェース・パネルの材質と厚さが静電容量を決める重要な要素であることが分かります.パネルの材質によって電極間(指と電極パッドの間)の誘電率が決まり,厚さによって電極間の距離が決まります.電極面積については,両電極が対面する面積が重要であるため,基板上の電極パッドの面積を指先の面積より大きくしても効果は得られません.ただし,近接センサとして使用する場合は,電極パッドを手のひら相当の面積まで拡げると,検出範囲を拡大できます.

 ユーザ・インターフェース・パネル上の補強リブなど,構造上の理由により回路基板をパネルに密着して取り付けられない場合があります.このようなとき,電極パッドの代わりにスプリングを回路基板に取り付けて対処します.このスプリングは,ユーザ・インターフェース・パネルのボタン部分にぴったりと押しつけるようにして取り付ける必要があります.これにより,パネルと回路基板の間のギャップを埋めることができます.この場合,パネルを介して指とスプリングの間に静電容量が発生します.この方法により,電極間距離を最小限に抑え,検出感度を低下させるエア・ギャップを回避できます.

 静電容量式タッチ・ユーザ・インターフェースは,電極パッドの静電容量を連続的に計測すると共に,環境変化に伴う寄生容量の緩やかな変化を監視します.これにより,タッチ操作が発生したことを判定するための基準値を内部で推定します.

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日