組み込み技術者のための資格試験，傾向と対策(3) ―― 高度な（スキル・レベル4の）情報処理技術者試験を知る

　前回に引き続き，国家試験である情報処理技術者試験について解説します．前回は，スキル・レベル1～3に対応する「ITパスポート試験（IP）」，「基本情報技術者試験（FE）」，「応用情報技術者試験（AP）」について説明しました．今回は，スキル・レベル4の試験である「エンベデッドシステムスペシャリスト試験」などの高度試験について解説します．

コラム・連載「組み込み技術者のための資格試験，傾向と対策」 バック・ナンバ
第1回　どのような資格試験があるの？
第2回　「組み込み技術者向け」の情報処理技術者試験って？

●試験に合格するメリットって？

　組み込み系のエンジニアから，

「うちの会社では，○○試験に合格しても何も出ません．昇給や昇進にも関係ありません．そんな場合，合格することで何かメリットはあるのですか？」

と の質問を受けることがあります．勤務先によっては，資格試験に合格すると報奨金として一時金が出たり，月々に手当が出たりする場合もありますが，金銭的な メリットがない場合もよくあります．特に組み込み系の企業では，資格試験になじみがないためか，IT系のソフトウェア企業に比べて，資格試験に対する金銭 的な手当が少ないこともよくあります．冒頭の言葉のように，合格しても金銭的な利益がないときは，試験に合格してもメリットがないように感じるかもしれま せん．

　しかし，名刺に「○○試験」と書いてあることでビジネスが大きく変わる場合もあります．その例として，筆者が初めて情報処理技術者の高度試験に合格した際のエピソードを紹介したいと思います．

　 今から10数年ほど前の話です．筆者は，とあるネットワークの試験に合格しました．それから数日後，上司に呼ばれ，「会社にネットワーク・ベンダの営業が 来るから，話を聞いてくれ」と言われました．そして来た営業担当者は，CCNA（Cisco Certified Network Associate；Cisco Systems社の認定試験の一種で，エントリ・レベルの試験）取り立てといった感じの，若いセールス・エンジニアでした．

　まだ新しい名刺が刷り上がっていなかったので，名刺交換の際に筆者が差し出したのは，古い名刺のままでした．その営業担当者は，私がネットワークの知識があることも 知らずに，ベンダ特有のカタカナ専門用語をやたら連発しながら，たたみかけるように自社のソリューションを自慢げにしゃべり，「後日ネットワーク・エンジ ニアを連れてくるので，具体的な話をしたい」と言い残し，帰っていきました．

　数日後，その営業担当者とネットワーク・エンジニアが再び 来社しました．ネットワーク・エンジニアとも名刺交換したのですが，新しく刷り上がった，「ネットワークスペシャリスト」の文字が入った名刺を渡しまし た．それを見た相手は，「おい，聞いてないぞ！」といった感じで，こそこそ話しだしました．そのネットワーク・エンジニアもCCNA持ちでしたが，さほど 深い技術があるようでもなく，こちらの技術的な質問に対して理解できていないようで，どうも話がかみ合わず，早々に退散していきました．

　 それから，1週間ほどした後，営業担当者と別のネットワーク・エンジニアが訪ねてきました．今度のネットワーク・エンジニアは，Cisco社の難しい資格 を持った人でした．話をして，「なるほどよく知っているし，経験もある」ことが分かり，前に来たエンジニアとは雲泥の差を感じました．相手がスキルの高い人なので，当然，話も早く，事はスムーズに進みました．

　たった名刺1枚に資格名が書いてあったか，なかったかの違いなのですが，それに よって相手もそれ相応のスキルの人に変わり，その結果，仕事がうまくいくことを実感するできました．筆者が昔，勤めていた会社でも，試験の合格に対する金銭的なメリットはわずかだったのですが，合格して良かったと感じています．