組み込み技術者のための資格試験,傾向と対策(3) ―― 高度な(スキル・レベル4の)情報処理技術者試験を知る

久保 幸夫

tag: 組み込み

コラム 2010年11月12日

●エンベデッドシステムスペシャリスト試験(略号:ES)

 エンベデッドシステムスペシャリスト試験は,情報処理技術者試験の中で唯一の組み込みに特化した試験です.午前Ⅰはすでに述べたように,高度試験の共通問題が出題されます.午前Ⅱ試験は,組み込みシステムに関連するハードウェア技術,ソフトウェア技術,開発技術などからスキル・レベル4の問題が出題されます.また,ネットワークやセキュリティの問題も出題されます.

 以下に,エンベデッドシステムスペシャリスト試験の午前Ⅱの問題例を示します.

平成22年 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午前Ⅱ問4
表のインターバルタイマを用いて約20ミリ秒ごとにタイマ割込みを発生させたいとき,16ビットタイマコンペアレジスタに設定する値は10進数で幾つか.ここで,システムクロックは32MHzとする.



ア 1
イ 19
ウ 1,999
エ 19,999

 このように,制御用マイコンの機能(ここではインターバル・タイマ)を,要件に合わせて使いこなすための能力が試されます.前回のコラムで紹介した「応用情報技術者試験(AP)」でも,同様の制御用マイコンの応用を問う問題が出題されていますが,出題は1~2問程度です.それに対して,エンベデッドシステムスペシャリスト試験の午前Ⅱでは,同様の傾向の問題が数多く出題され,レベルも高いものが出題されています.ただし,国家試験なので,特定のベンダや製品に特化した問題は出題されず,一般的な技術的内容から出題されます.そのあたりが,このコラムの次回以降で紹介するベンダ系の試験と大きく異なる点です.

 なお,平成22年のエンベデッドシステムスペシャリスト試験のすべての問題と解答は,試験センターの「平成22年度春期試験 問題冊子」のページから参照できます.

 午後Ⅰ試験は,記述式の問題が出題され,90分の試験時間中に,3問中2問を選択して解答する必要があります.エンベデッドシステムスペシャリスト試験の午後Ⅰには,必須問題と選択問題があるのが特徴です.これは,エンベデッドシステムスペシャリスト試験の受験者には,主に組み込みソフトウェアを担当するソフトウェア・エンジニアと,主にハードウェアを担当するハードウェア・エンジニアがおり,その双方に対応するためです.

 午後Ⅰの問1は必須問題で,ハードウェア,ソフトウェア双方の面から出題されます.必須問題なので,比較的解きやすい問題が出題されています.残る問2と問3が選択問題です.ソフトウェア,またはハードウェアをテーマにした問題が出題されるので,受験者が得意とする問題を選択できます.その分,必須問題である問1よりもボリュームが多く,技術的にも突っ込んだ内容が出題されており,難易度は高めとなっています.

 午後Ⅰの問題では,要件を踏まえて仕様を読み取る問題や,リアルタイム性に関する問題などが出題されています.ソフトウェア系の問題であればタスク設計などの問題,ハードウェア系の問題であればハードウェア構成やマイコンとインターフェース,センサ,アクチュエータなどに関する問題が出されます.また,機能要件以外にも,信頼性要件,安全性要件などに関する設問も多くあります.以下に,出題例を示します.

平成22年 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午後Ⅰ問1(抜粋)
通信機能をもつ宅配荷物受取システムに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ.
・・(省略)・・
設問3 制御部のタスクについて,(1)~(3)に答えよ.
制御部のタスクの機能概要を表に,制御部のタスク関連図を図2に示す.



(1) 図2中の[  a  ]~[  c  ]に入れる適切なタスク名を答えよ.
(2) 図2中のⅠで送信されるメッセージに含まれる情報として,住戸番号と荷物データの削除指示のほかに必要となる荷物データの情報を答えよ.
(3) 図2中のⅡで,荷物部通信タスクが受信するメッセージに含まれる情報を二つ答えよ.

 この問題は,問1の必須問題です.このように,タスクの表やタスク構成図などを基に,タスクの設計能力を見る問題や,リアルタイム性を満たすための問題が出題されます.

 午後Ⅱ試験は,120分の試験時間中に,2問中1問を選択して解答する必要があります.午後Ⅰと同じく,記述式の問題が出題されますが,1問あたり10~12ページのボリュームがあり,午後Ⅰよりも深い内容が出題されます.問1は主にハードウェア系,問2は主にソフトウェア系の問題なので,受験者が得意な分野を選択できます.なお,問2のソフトウェア系の問題では,リアルタイムOSを使用したタスク設計などの問題が出題されます.セマフォやイベント・フラグといった,組み込みシステムでよく使用されるシステム・コールの問題も出題される場合があります(平成21年度の試験では出題されていないが,それ以外の年は毎年出題されている).システム・コールの表記はITRONに似ていますが,国家試験なので特定のリアルタイムOSのものではなく,独自の仕様のシステム・コールを使用しています.

 問題が長いのでここでは掲載できませんが,すべての問題と解答は,試験センターの「平成22年度春期試験 問題冊子」のページから参照できます.エンベデッドシステムスペシャリスト試験(ES)の午後Ⅰまたは午後Ⅱをクリックして,本試験のPDFを参照してください.

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