組み込み技術者のための資格試験,傾向と対策(3) ―― 高度な(スキル・レベル4の)情報処理技術者試験を知る

久保 幸夫

tag: 組み込み

コラム 2010年11月12日

●システムアーキテクト試験(略号:SA)

 次に,システムアーキテクト試験を解説します.この試験は,システム・エンジニア向けであった旧アプリケーションエンジニア試験の後続となる試験で,新制度では,組み込み系の分野も含まれるシステムアーキテクト試験となりました.

 ほかの高度試験と同じように,午前Ⅰは共通の問題です.午前Ⅱでは,ITマネジメント分野やITストラテジ分野など,システム・アーキテクト向けの上流工程や企業経営に関する問題が出題されています.

 午後Ⅰは記述式問題で,4問から任意の2問を選択して解答します.出題テーマは,情報システムや組み込みシステムの開発における,システム方式設計やアプリケーションの設計などです.平成21年度は4問中3問が情報システムをテーマにしたもので,1問が組み込みシステムをテーマにしたものが出題されました.なお,新制度のシステムアーキテクト試験では,DFD(Data Flow Diagram)やUML(Unified Modeling Language)などのダイヤグラムが出てくる設計問題が増えました.ちなみに,過去のアプリケーションエンジニア試験では,UMLを使用したオブジェクト指向分析・設計も出題されています.なお,平成21年午後Ⅰでは組み込み系の問題として,問4で新入退出管理システムの開発に関する問題が出題されています.

 午後Ⅱは,システム・アーキテクトとしての実践力を測ることを目的とした,論述式(小論文)の試験です.テーマとして3問が出題され,その中から1問を選択して論述します.以下に,組み込み系のテーマが出題された事例を示します.

平成21年システムアーキテクト試験 午後Ⅱ問3
組込みシステムにおける適切な外部調達について

 システムアーキテクトは,製品開発などの企画書に基づいてシステムの要件を分析し,機能仕様を決定する.また,この機能仕様を実現するための具体的な手段を検討し,最適なアーキテクチャを設計する.この際,ある機能を実現するために,外部調達が必要になることがある. 例えば,機能を実現するには,自社の保有技術だけでは困難であったり,開発に時間が掛かり過ぎたりすることがある.このようなとき,実現手段として,モジュール,ライブラリ,部品,技術などを外部調達することが考えられる.
実現すべき機能のどの部分を外部調達するかは,システムのアーキテクチャ設計を踏まえて,調達する部分を適切に選定する必要がある.そのためには,実現すべき機能についてさらに詳細に機能分割することのほかに,次のような点について分析し,検討することが重要である.
・コスト
・開発スケジュール
・性能信頼性,保守性
・将来の再利用性
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ.

設問ア あなたがシステムアーキテクトとして携わった組込み製品の概要,および必要な機能の実現手段の検討において発生した外部調達の課題について,製品の特徴や特性を踏まえて,800字以内で述べよ.

設問イ 設問アで述べた外部調達の課題に対して,あなたはどのような点について分析し,検討し,どのような結論に達したかを,本文中の四つの点も含めて,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ.

設問ウ 設問イの結論に基づいた製品開発が完了したときには,改めて設問イで述べた検討内容および結論について評価し,その経験を次の開発に活用していくことが重要である.あなたは,取り組んだ外部調達についてどの点をどのように評価し,引き継がれていく経験として何を残したかを,設問イの論述を踏まえて,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ.

 このように,午後Ⅱでは,出題されたテーマに沿って,システム・アーキテクトの立場で論じる必要があります.また,論述内容は,受験者自身が経験した内容をベースに書く必要がありますので,実務経験が必要となります.また,試験に合格するためには,論文ネタの準備と,見出しやストーリ案などの構成の準備,論述内容を手書きで書く練習などが欠かせません.

 すべての問題と解答は,試験センターの「平成21年度春期試験 問題冊子」のページから参照できます.「システムアーキテクト試験(SA)」をクリックして,本試験のPDFを参照してください.

 なお,今回紹介できなかったITストラテジスト試験やプロジェクトマネージャー試験でも,午後Ⅱ試験で,システムアーキテクト試験と同様な形式の小論文の問題が出題されます.

●受験はベテランが有利? 若手が有利?

 ちなみに,論文系の高度情報処理技術者試験は,実務経験が豊富なほど有利になるので,試験の応募者は30歳後半から40歳代が多く,合格者もその年代が多いことが統計に出ています.年齢からみると,アーキテクトや,マネージャになる前の人,もしくは,なって間もない人が多いように見受けられます.試験センターが示している各試験の対象者像や業務や役割から考えると,応募者,合格者ともにもう少し高い年代が増えてもおかしくはありませんが,若い人の方が多い傾向があります.もっとも,マネージャになってしまうと,自分自身が忙しくて試験どころではなくなるのかもしれません.また,1日がかりの試験は,体力的にも精神的にも大変です.それを考えると,若い人の方が有利であることは否めません.

●「国家試験」の限界

 今回は,組み込みに関係の深い高度情報処理技術者試験として,エンベデッドシステムスペシャリスト試験とシステムアーキテクト試験を中心に紹介しました.各試験の問題の一部も紹介しましたが,腕に覚えのある方は,ぜひ実際の試験にもチャレンジしてみてください.情報処理技術者試験の受験料は全区分で5,100円と,この手の試験としては格安の受験料です.

 特に,今回紹介した高度試験は記述式や論文の採点が必要になるので,採点コストもかなり高くかかっていると推測されます.なぜなら,記述式や論文の採点には,その試験のレベルもしくはそれ以上のレベルの採点者(もちろん技術者)が数多く必要だからです.それを考えると,民間ではこの受験料で同様のサービスを提供することは無理なことで,国家試験だからこそできるサービスだと思います.ですから,これを使わない手はありません.

 しかし,前述したように,国家試験である情報処理技術者試験の制度では,特定のベンダや製品に特化した問題が出題できないので,より開発現場に即した,実務的な問題が出せないという問題点もあります.また,スキル・レベル1~3に相当する,ITパスポート,基本情報技術者,応用情報技術者の各試験では,組み込み特有の出題が少ないこともあって,「組み込み力」を試すには不足があることも確かです.しかし,公的試験や民間試験(ベンダ試験)を活用することで,それを補完することができます.

 そこで,次回は,社団法人システム技術協会(JASA)が実施する「ETEC(組込み技術者試験制度)」について解説したいと思います.

くぼ・ゆきお
組み込み&IT関連資格講師

 

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