宇宙帆船「IKAROS(イカロス)」のシステム開発(前編) ―― ソーラー電力セイル・プロジェクト,世界初の技術に挑戦

船瀬 龍

tag: 組み込み

技術解説 2010年9月16日

●IKAROSのシステム構成

 図6に,IKAROSを構成する機器類のブロック図を示します.

図6 IKAROSのシステム・ブロック図

 ブロック図の中央にある機器がDHU(Data Handling Unit;データ処理装置)で,衛星全体の動作の制御を司る計算機です.地上からIKAROSに送信するコマンド(命令)と,IKAROSから送信されるテレメトリ(IKAROSの状態を示すデータや画像などの各種観測データ)は,すべてDHUを通っています.

 図6の右側にあるのが姿勢制御系と言って,IKAROSの姿勢(向き)を計測したり制御したりするための機器類です.レート・ジャイロで角速度を計測し,太陽センサ(SSAS)で太陽とIKAROSのスピン軸の間の角度(太陽角)を計測します.右下が姿勢を制御するための化学推進エンジンです.これらの機器からのデータを処理したり,化学推進エンジンのバルブの開閉を制御する機器がDRU(Driver Unit;ドライバ・ユニット)です.

 燃料を使用しないはずのソーラーセイルで何故通常の「燃料を消費する」エンジンを搭載しているのか疑問に思われる方もおられるかもしれませんが,IKAROSはソーラーセイルに関連する技術を試験する実証機なので,姿勢の制御には通常の人工衛星に搭載される化学推進エンジンを使用しています.ソーラーセイルの本質である,軌道を制御するための推進力は,純粋に太陽光圧だけで発生させています.軌道制御の実験のために姿勢を制御する必要があるのですが,そこは手堅く通常の推進系を使っています.

 図6の左下が通信系で,地球からIKAROSに送信される電波(コマンド)を受信したり,IKAROSから地球へ情報(テレメトリ)を送信するための機器です.アンテナも,指向性や指向方向が異なるものを複数搭載していて,地球とIKAROSの姿勢や位置関係によって使い分けています.

 その上が電源系で,IKAROS上面に貼り付けられた太陽電池の電力を,適切な電圧に変換して各搭載機器に分配したり,非常用のバッテリを充電したりします.

 図6の左上がミッション系機器です.「ミッション系機器」とは,人工衛星・探査機のミッションに直接関係する機器のことです(反対に,それ以外の機器を「バス機器」と呼ぶ).IKAROSのミッション系機器は主に,セイル展開機構を駆動するドライバと,展開したセイルに搭載された薄膜太陽電池の発電量計測機器,展開したセイルの撮像を行うカメラなどで構成されます.詳細は次回に紹介します.

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 今回は,ソーラーセイルの持つ意義について説明し,その実証機であるIKAROSの概要を紹介しました.世界初のソーラーセイルを実現するという快挙を遂げたIKAROSですが,次回はその設計の詳細に踏み込んで紹介していきたいと思います.



ふなせ・りゅう
独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)

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