2013年は「IT融合」で反転攻勢,中小企業の研究開発も手厚く支援 ―― 組み込みネット新春インタビュー(1) 経済産業省

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2013年1月 7日

Tech Village「組み込みネット」では,新春特別企画として,「2013年,組み込み技術の展望」をお届けします.本企画は,2013年の技術動向や産業動向を紹介する目的で,組み込み関連企業などにインタビューを行いました.第1回は,経済産業省の瀧澤 祐太氏(写真1)に,日本における組み込みソフトウェア産業の位置づけや産業振興の取り組みなどについて話を伺いました.(Tech Village編集部)

 

写真1 経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 技術係長 瀧澤 祐太氏

 

 

―― 経済産業省では組み込みソフトウェア産業をどのように位置づけていますか?

瀧澤氏:経済産業省としては,「組込みソフトウェア業」を,ものづくり産業における基盤技術の筆頭技術と位置づけています.これは,経済産業省 中小企業庁における「中小企業の特定ものづくり基盤技術の高度化に関する指針」の中で組み込みソフトウェアにかかわる技術を1番目に掲げているからです.

 特定ものづくり基盤技術とは,中小ものづくり高度化法に基づいて,ものづくりの基盤となる技術の中から,主として中小企業が担い,その高度化を図ることが日本の製造業の国際競争力強化や新たな事業の創出に貢献するものとして,経済産業大臣が指定した技術です.中小企業政策の一環として,組み込みソフトウェアの現状をまとめ,技術別指針を公開しています.昨年の4月に改定されたので,ぜひご確認いただきたいと思います.

 「組込みソフトウェア業」は,国内経済のなかで占める割合が非常に大きいと思います.それは,輸送用機器,電気機器,一般機器を組み込みソフトウェア関連産業と捉えた場合,国内総生産の12.4%に相当し,この基盤を支えているのが,「組込みソフトウェア業」だと考えられるからです(図1).

 

図1 平成22年の国内総生産(名目)に占める組込みソフトウェア産業

出典:IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の「2011年度ソフトウェア産業の実態把握に関する調査」

 

 

―― 2012年は,組み込みソフトウェア産業にとってどのような年だったと考えていますか?

瀧澤氏:2008年のリーマン・ショック以降,世界経済が低迷し,さらに2011年の東北地方太平洋沖地震の影響で,国内の新規プロジェクトがなくなり,「組込みソフトウェア業」も厳しい状況だと捉えています.独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の実態調査「ソフトウェア産業の実態把握に関する調査」を見ても分かるように,「赤字あるいは利益なし」と回答した企業が23.8%もありました(図2).大変厳しい状況が続いていると思います.

注1:経済産業省では,2003年度から2010年度まで「組込みソフトウェア産業実態調査」を実施していたが,2011年度よりIPAの「ソフトウェア産業の実態把握に関する調査」と統合した.

 

図2 組み込み関連事業の営業利益

出典:IPAの「2011年度ソフトウェア産業の実態把握に関する調査」

 

 

―― 組み込みソフトウェア産業の振興のために,経済産業省ではどのような取り組みを行っているのでしょう?

瀧澤氏:経済産業省としては,中小企業への支援を手厚くする施策の一つとして「サポイン事業」に取り組んでいます.

 「サポイン」とは「サポーティング・インダストリ」の略称で,「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」に基づく支援策の一環として,同法により「特定研究開発等計画」の認定を受けた中小企業が国からの委託を受け,研究開発から試作までを行うものです.初年度は4500万円以下,2年度目の契約額は初年度の契約額の2/3以下,3年度目の契約額は初年度の契約額の1/2以下となる国費100%の委託事業です.

 平成24年(2012年)度の組み込み分野の採択状況は,応募が89件で採択は11件となっています. 昨年は4月16日~6月19日に公募を行いました.本年も同時期に公募を行う予定です.新しい事業を始めたい中小企業の皆さんにとっては,よい事業だと考えています.この事業は,要するにがんばっている中小企業を支援するための仕組みです.ひいては,日本のものづくりを支える施策であると考えています.

 サポイン事業には,技術面だけでなく,事業化面や政策面からの審査があります.技術面の仕様書は書けるが,事業化面や政策面などの要求が分からない場合は,経済産業局へご相談ください.自社の事業化だけを考えるのではなく,アドバイザとして他の企業や大学など,多くの方から意見を得ることができます.

 

―― 2013年の組み込みソフトウェア産業は,どのような方向に向かうと見ていますか?

瀧澤氏:経済状況を考えると,2013年も組み込みソフトウェア産業は厳しいと思います.これまでに蓄積した技術を他の分野のニーズと組み合わせて応用することが必要だとみています.経済産業省としては,ニーズに合わせた技術の高度化と実用化を支援していきたいと考えており,二つのコンソーシアムの活動を支援しています.

 一つ目は,一般社団法人JASPAR(Japan Automotive Software Platform and Architecture)の活動です.機能安全規格は,至急対応しなければいけないと考えています.ISO 26262は,2011年11月に正式に発行された自動車向けの機能安全規格です.欧州連合(EU)では,自動車がどの国で作られたとしても一定の製品品質を保証するものとして法規制が実施される可能性が高いと思います.そのため,欧州市場と密接な関連を持つ国内の自動車メーカや電装機器メーカはもちろんのこと,その取引先である中小企業や連携先である大学もこうした流れと無関係ではありません.JASPARでは中小企業を支援するため,開発現場で利用可能なISO 26262の解説書を作成しています.平成25年(2013年)2月に, JASPARのホームページでこの解説書を一般公開する予定です.

 二つ目は,一般社団法人TERAS(Tool Environment for Reliable and Accountable Software)の活動です.ISO 26262などの機能安全規格の対応が高まるにつれて,第三者へソフトウェアの品質を説明したり,検証結果を残したりする必要性が出てきます.そこで,開発現場で使用するツールが生成した情報(要件,設計,変更など)を保存,共有,分析する必要があり,そのためにTERASでは,開発現場で使用するツールとのインターフェースを備えたオープンな設計情報のデータベースを開発しています.このプラットフォームにより,ドキュメント間のトレーサビリティが可能になり,中小企業でも高価なツールを購入せずに,既存のソフトウェアの品質を説明しやすくなります.この活動は,平成23年度から平成25年度までの3カ年事業として実施しています.

 

―― 2013年について,どのようなキーワードに注目していますか?

瀧澤氏:あらゆる機器がネットワークに接続され,世の中の環境が大きく変化しました.今後は,組み込み技術とIT(Information Technology)の融合により新しい産業が創出されると考えています.この「IT融合新産業」のイメージとしては,三つの形態を想定しています(図3).一つ目の新技術は大量のデータを活用した,IT分野での新しいビジネスです.二つ目は,建機,エネルギー,農業,自動車,ロボット,医療機器,医療ヘルスケア,小売などの産業でITを活用し,競争力を強化するビジネスです.三つ目は,ITデータを媒介とした,異なる分野の融合によって創造される新しいビジネスをイメージしています.例えば,エネルギーと自動車と交通システムに関して,ITデータを活用することで新しいビジネスを創出します.

 

図3 IT・データを起点とした「IT融合新産業」のイメージ

 


―― 最後に,今後,組み込み系の技術者を取り巻く環境は良くなるのでしょうか?

瀧澤氏:今後,技術者を取り巻く環境を良くするには,技術者教育が鍵になると思います.組み込みソフトウェアは最終製品ではないので,技術の価値が適切に評価されない場合が多いと思われます.そこで,最終製品やサービスを提供する企業のニーズに応えた技術の高度化と実用化が必要です.例えば,数学や論理学などの基礎的な論理思考力を備えたモデル・ベース設計などに対応できる高度な技術者の育成が重要な課題になると思います.

 

 

●参考URL
(1) 経済産業省中小企業庁;中小企業の特定ものづくり基盤技術の高度化に関する指針
(2) 経済産業省 関東経済産業局;関東経済産業局管内における採択結果一覧
(3)一般社団法人JASPAR;JASPARのWebサイト
(4)一般社団法人TERAS;TERASのWebサイト

 

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