宇宙帆船「IKAROS(イカロス)」のシステム開発(前編) ―― ソーラー電力セイル・プロジェクト,世界初の技術に挑戦

船瀬 龍

tag: 組み込み

技術解説 2010年9月16日

 地球上では光の圧力を感じることはほとんどありませんが,どんな物体も太陽光が当たることによって微弱な圧力(1km2あたり約500gの力)を受けているのです.そして,宇宙空間で大きな帆を広げることで効率良く太陽光の圧力を受け,24時間365日,常に加速し続けることによって大きな加速量を獲得し,宇宙空間を自在に航行する宇宙船が「宇宙帆船(ソーラーセイル;Solar Sail)」なのです.

 図3に,ソーラーセイルによる軌道制御方法のイメージを示します.太陽を周回するどんな探査機も,打ち上げられた後は,特に加速・減速しなくても太陽の周りを楕円形状の軌道を描いて周回し続けることができます(図3の「元の軌道」がそれに相当する).ソーラーセイルは,太陽の光を反射することによる反作用で力を受けるわけですが,例えば図3の左のような角度にセイルを傾けると,元の軌道に対して,進行速度を増やす方向に力を受けます.そうすると,セイルの軌道は元の軌道から大きく膨らむことになり,太陽から遠ざかります(図3の「変化した軌道」がそれに相当する).逆に,図3の右のようにセイルを傾けると,進行速度を減らす方向に力を受けて,セイルの軌道は元の軌道から小さくなり,太陽に近づきます.太陽の光の圧力で進む,というと,"風上"(太陽に近づく方向)に進むことができないと思われるかもしれませんが,太陽に対する帆(セイル)の角度を変えることによって,"風上"にも"風下"にも自在に進むことができるのです.

図3 ソーラーセイルによる軌道制御のイメージ図

 ロケットや通常の人工衛星は,燃料を使って宇宙空間での軌道を制御するため,搭載できる燃料量によって軌道制御量の限界が決まります.ソーラーセイルによって燃料を使わずに航行できるとなると,より多くのペイロード(観測機器など)を搭載し,より遠くの惑星へ,より長時間航行することが可能になります.大型帆船の登場によって人類が地球上を自由に行き来できるようになった中世の大航海時代と同じように,ソーラーセイルの実現によって,人類が太陽系を自由に往来できる「太陽系大航海時代」が到来すると期待されています.

●光圧と太陽電池を組み合わせた「ソーラー電力セイル」は日本発

 さらに,日本が独自に提唱しているソーラーセイルは,単なるソーラーセイルではなく「ソーラー電力セイル」と言って,大きく広げた帆に大面積で超軽量な薄膜太陽電池を搭載し,発電できるシステムになっています.その電力を用いて,「はやぶさ」で実証した燃費の良いイオン・エンジンを強力に駆動し,太陽光圧による加速と組み合わせた「ハイブリッド推進」によって,効率的に宇宙空間を航行します.

 一般に,木星など太陽から遠い惑星の近辺では,太陽光の強度が小さいため,通常の固くて重い太陽電池パドルを使って十分な電力を得ることは難しくなります.図1のはやぶさの本体両側に突き出ているのが太陽電池パドルですが,サイズは片側約1.5m×4m,重量は50kg程度です.はやぶさは,太陽からそれほど遠くない軌道を飛行していましたが,もし同じ電力を木星近辺で発電しようとすると,約25倍の重量の大きくて重いパドルが必要になってしまいます.一方,日本の提唱するソーラー電力セイルは,太陽から遠いところでも大面積で軽量な薄膜太陽電池によって十分な発電量を得ることができるため,このような外惑星領域の探査に有利な技術といえます.「はやぶさ」で獲得したイオンエンジンの技術と,IKAROSで実証されるソーラー電力セイル技術を組み合わせることで,地球から遠く離れた外惑星領域を自在に航行できるようになるのです.

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