宇宙帆船「IKAROS(イカロス)」のシステム開発(前編) ―― ソーラー電力セイル・プロジェクト,世界初の技術に挑戦

船瀬 龍

tag: 組み込み

技術解説 2010年9月16日

●IKAROSのミッションはセイル展開と軌道制御

 IKAROS(イカロス)は,ソーラー電力セイルによる宇宙航行技術を実証するための小型の探査機です.本体は,直径1.6m,半径0.8m程度の円筒形状をしていて,打ち上げ前はそこに一辺14mの薄膜状のセイルを巻き付けて収納しています(写真1図4).IKAROSは,金星探査機「あかつき」とともに打ち上げられ,金星に向かう惑星間軌道上で,ソーラーセイルに関連するさまざまな技術実証実験を行います.IKAROSの主なミッション(目的)は,宇宙空間で大型の膜面(セイル)を展開することと,展開したセイルを用いて宇宙空間で加速・軌道制御する技術を獲得することです.電力セイルの技術実証として,セイルに搭載した薄膜太陽電池による発電を確認することも,目的の一つです.

 ソーラーセイルの実現に向けて,これまでは日本,米国,欧州の間で競争していたのですが,IKAROSが成功すれば,人類初のソーラーセイルを実現することとなります.SF小説の題材にもなる夢のような話が,世界に先駆けて,日本の技術によって実現されるわけです.

写真1 打ち上げ前の電気試験中のIKAROS(画像提供:宇宙航空研究開発機構)

図4 搭載したセイル(帆)の概要
上はセイルの構成,下はセイルの1/4の台形状部分の写真.

●短期間,低予算,少人数の壁

 このように,IKAROSは,数々の世界初の技術実証を狙った野心的なプロジェクトですが,その実現までの道のりは困難を極めました.具体的には,スケジュール,予算,人的リソースのそれぞれの制約の面で,通常の人工衛星開発プロジェクトと比較して非常に難しい面がありました.

(1)スケジュールの壁
金星探査機「あかつき」をH2Aロケットで打ち上げる際の余剰重量を活用してIKAROSを打ち上げることが決まったのが2007年度です.通常の人工衛星は5~10年の開発期間を要することが多いのですが,H2Aロケットの打ち上げは2010年度ということで,図らずも約2年半という非常に短い開発期間となりました.

(2)予算の壁
IKAROSは一つの衛星でロケットを占有する主衛星ではなく,ロケットの余剰重量を利用して搭載する副衛星ということで,予算面では通常のプロジェクトの10分の1程度という制約がありました.

(3)人的リソースの壁
小規模なプロジェクトということもあり,ごく少数(10名弱)のプロジェクト・メンバで計画を遂行する必要がありました.

 (1)(2)の制約に対しては,製造後の試験項目の削減(もちろん技術的な判断から要不要を慎重に判断している),使用する電子部品に対する信頼性要求の緩和, JAXA内のプロジェクト・メンバによる内製の機器開発・試験実施など,数々の工夫を行うことで問題を解消しました.技術的な工夫によって(1)(3)の各制約を回避しつつも,最終的に機体を完成させ,無事に打ち上げまで至ることができた最大の要因は,各プロジェクト・メンバが「世界初の技術に挑戦し,成功させる」という高いモチベーションを持って献身的に取り組んできたことだと思います.

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