ナノテクがLSI,発光素子,MEMSを変える ―― nano tech 2009レポート

福田 昭

 ナノテクノロジの技術と製品に関する展示会と学会「nano tech 2009 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」(主催:nano tech実行委員会)が2009年2月18~20日に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催された(写真1).展示会の出展企業数は603社,出展小間数は909小間で,いずれも過去最大の規模である.展示会場ではエレクトロニクスのほか,精密機械,材料,化学,バイオ,計測など,さまざまな分野の企業や研究機関,大学などが最新の技術成果や製品などを披露していた.

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[写真1] nano tech 2009の展示会場の様子

 大手エレクトロニクス企業4社の展示に共通して言えるのは,通常の見本市/展示会と違い,営業担当者ではなく,研究者が説明員をしていたことだ.これは展示会としてはかなり珍しい.一般に展示会では,説明員が営業担当者やマーケティング担当者などであり,技術的な質問についてその場で答えが得られないことが少なくない.ところがnano tech 2009では,少なくとも大手エレクトロニクス企業4社のブースを見て回った限りでは,基本的な質問から,かなり細かい質問まで,丁寧な回答を得ることができた.ふだんは会うことのできない企業研究者に来場者が直に質問できる,貴重な機会となっていることが分かる.

●カーボン材料の研究に力を入れる

 富士通は,「カーボン(炭素)」を利用したナノテクノロジの研究成果を数多く展示していた.材料は大きく二つ.「カーボン・ナノチューブ(CNT)」と「グラフェン」である.

 カーボン・ナノチューブはカーボン結晶の一つで,微小な円筒状の構造をした材料である.円筒の直径は数nm~数十nm,円筒の長さは数μm~数十μm.立体構造の違いによって導体になったり,半導体になったりする.

 富士通は,将来の高速大規模論理LSIにカーボン・ナノチューブを応用する研究の概要を紹介していた.例えば,多層配線のビア(層間を接続する導体)をカーボン・ナノチューブで形成する.現行の高速大規模論理LSIは多層配線の金属に銅(Cu)を使っている.ビア付近は電流集中が起きやすく,過度の電流集中によって金属原子が移動し,ビアまたは配線の抵抗が増大するといった不良(エレクトロマイグレーション不良)を起こす懸念がある.カーボン・ナノチューブは銅の1000倍もの電流(断面積当たり)を流せるので,ビアに利用すれば多層配線の信頼性を高めることができる(写真2)

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[写真2] カーボン・ナノチューブ(CNT)をLSI多層配線のビアに応用するアイデア

 またカーボン・ナノチューブは,放熱性にも優れている.熱伝導率は銅のおよそ10倍になる.そこで半導体パッケージの放熱用バンプ(写真3)にカーボン・ナノチューブを応用する研究を,富士通は進めている(写真4).さらに,カーボン・ナノチューブは軟らかいので半導体チップ(ダイ)をフリップチップ実装するときのバンプに使えば,実装基板とシリコン半導体の間の熱膨張係数の違いに起因する応力や機械的振動などのストレスを緩和できる.この応用に向けた研究も富士通は手掛けている(写真5)

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[写真3] 半導体パッケージの放熱用バンプをカーボン・ナノチューブで作製したサンプル

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[写真4] カーボン・ナノチューブを半導体パッケージの放熱用バンプに応用するアイデア

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[写真5] カーボン・ナノチューブをフリップチップ実装用バンプに応用するアイデア

 続いて,もう一つのカーボン材料「グラフェン」である.グラフェンは,グラファイトを元にできた結晶だ.黒鉛として知られるグラファイトは,六角形が連なる薄い面を数多く重ねた構造をしている.この六角形が連なる面を1層だけ取り出した結晶がグラフェンで,最近になって作製できるようになった.

 富士通は,グラフェンをMOS FETのチャネル領域に応用した研究を展示していた(写真6).グラフェンはシリコン半導体に比べると電子移動度が約10倍高く,超高速あるいは低消費電流のトランジスタを作れると期待されている.展示ブースでは,3~4層以下のグラフェンをチャネルに使えば,ゲート電圧によってチャネル電流を制御できることを示していた.グラフェンは面内方向には電流がよく流れるものの,面と垂直な方向には電流があまり流れない.このため,グラフェンの層数をあまり多くすると電流を制御できなくなると考えられていた.この考えをトランジスタの試作と実験によって確認した.なおトランジスタの動作温度は49Kとまだ低い.

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[写真6] グラフェンをチャネルに使ったトランジスタ

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