組み込み機器に欠かせなくなった不揮発メモリの最新動向 ―― フラッシュROM,FeRAM,MRAMの現在
●バス幅の拡張やDDR方式で転送速度を向上
フラッシュROMの多くは,ランダム・アクセス時に数十ns(ナノ秒)のアクセス時間を必要とします.ページ・モードによる転送やバースト転送を行っても10数nsかかります.特にNOR型フラッシュROMの場合,8ビット・バス幅のバースト転送が基本であり,これだけでは性能的に物足りません.
そこで,さらなるデータ転送速度の向上を目指すために,以下のようなアプローチがとられています.
- バス幅を32ビットに広げる――米国Spansion社のS70GL,S29C/CD-Lファミリなど
- DDR(Double Data Rate)転送を使う――米国Micron Technology社のMT29Hファミリなど
通常のフラッシュROMのバスは,8ビット・バスか16ビット・バスが一般的です.バス幅を32ビットに広げるという前者の方法には,パッケージ面積が若干増加するという問題があります.ただし,32ビット・バス幅の組み込み系プロセッサと組み合わせて利用するのであれば1個のメモリで対応できることになり(従来は複数個必要なところが1個のメモリになる),基板の占有面積は実質的に減ると考えられます.
データ転送速度を向上させるもう一つのアプローチが,高速な転送方式の採用です.ストレージ用途のアプリケーションでは,主にNAND型フラッシュROMが採用されますが,特にブロック単位でデータの入出力を行うため,同期式アクセスが有効です.その上で,DDR SDRAMのようにクロックの立ち上がりと立ち下がりを使ったDDR転送を採用したものがあります.
例えばMicron Technology社のMT29Hファミリは,DDR転送方式を採用したNAND型フラッシュROMです.通常は非同期転送モードで動きますが,同期転送モードに設定すると,データ・ストローブ信号(DQS信号)の両エッジでデータの転送が行われます.このメモリでは,166Mビット/sの速度(アクセス時間は6ns)でデータを転送できます.
●セキュアなフラッシュROMが登場
フラッシュROMは基本的にデータの読み出しが容易に行えるメモリです.そうでなければ,プロセッサの命令コードを出し入れできません.しかし,プログラム・コードを不法に読み出して同じようなメモリ・デバイスにコピーし,販売するような行為は現実的に行われています.
そこで,セキュリティ機能を備えたフラッシュROMが登場しています.例えばNumonyx社のM58PRファミリやM58LTファミリなどです.これらのメモリにはCFI(Common Flash Memory Interface)空間の中に64ビット長のLPR(Lock Protection Register)と呼ばれるセキュアな領域が実装されています.この部分は出荷メーカだけが書き込み可能な個別IDデータの領域で,ユーザは読み出すことしかできません.ユーザ・アプリケーション・プログラムが起動した後にフラッシュROMのこの領域を読み出すことで,ROMが正規のものであるかどうかを判断できます.また,2,112ビットのワンタイム(1回書き込み)ROM領域も用意されています.