あなたが設計したLSIから秘密情報が漏れてます ―― 暗号回路のトレンドはアルゴリズムの標準化から実装の安全性評価へ
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暗号とデータ圧縮
英文では文字EやTの出現頻度がとくに高く,XやZはほとんど現れません.また,Qにはほとんどの場合Uが続くというように,文章中の文字列パターンには統計的な偏りがあります.シャーロック・ホームズの踊る人形は,アルファベットと人形が1対1に対応する暗号で,元の文章の統計的性質をそのまま保持していたため,すぐに解読されてしまったのです.このような統計的な偏りをなくすことが,現代暗号には最低限求められます.
ところで,通信文の統計的性質をうまく利用したアプリケーションに「モールス信号」があります.表B-1のように頻繁に現れる文字には短い符号語を,使用頻度の低い文字には長い符号語を割り当てて,通信時間を短縮します.データ圧縮の草分けとも言えます.
今日では,用途に応じてさまざまなデータ圧縮アルゴリズムが開発されていますが,それらはすべてモールス信号のようにデータの統計的性質をうまく利用しています.ですから,統計的性質が隠ぺいされた暗号文を圧縮することはできません.データの暗号化と圧縮を行いたいときには,かならず圧縮を先に行う必要があります.
余談になりますが,モールス信号の"SOS"は何かの略語ではなく,だれが聞いてもすぐに緊急事態であることがわかるように,特徴的なパターン"・・・― ― ― ・・・"が選ばれたのです.
A |
・― | N |
―・ |
B |
―・・・ | O |
― ― ― |
C |
―・―・ | P |
・― ―・ |
D |
―・・ | Q |
― ―・― |
E |
・ | R |
・―・ |
F |
・・―・ | S |
・・・ |
G |
― ―・ | T |
― |
H |
・・・・ | U |
・・― |
I |
・・ | V |
・・・― |
J |
・― ― ― ― | W |
・― ― |
K |
―・― | X |
―・・― |
L |
・―・・ | Y |
―・― ― |
M |
― ― | Z |
― ―・・ |