システム・レベル設計とはなにか

木下常雄

tag: 組み込み 半導体

技術解説 2001年4月21日

●幅広い知識とバランス感覚が必要

 ここで,システム・アーキテクトの仕事の例を紹介しましょう.最近,急激に勢いを増しているDVDが開発されたころの話です.当時,動画像の圧縮技術として,1Mbpsのデータ転送速度に対応したMPEG1と,3M~10MbpsのMPEG2が相次いで規格化されました.MPEG1はパソコンの世界で受け入れられましたが,MPEG2にはその能力を活かせる適当な記録メディアが存在しませんでした.

 DVDの規格策定に参加した電機メーカの技術者たちは,記録するCDの板厚を従来の1.2mmから半分の0.6mmにして記録密度を引き上げる技術と,MPEG2のデータ圧縮方式を結びつけることでDVDの基本構想をまとめました.そして,DVDプレーヤに必要となるLSIや光ピックアップの開発が突貫工事で進められました.一方,DVDを商品化するに当たって,その記録フォーマットの策定では,各社が自社の特許を反映させるべく激しい争いが起こりました.さらに著作権保護やParental Control(暴力シーンなどから子供を保護すること)など,さまざまな仕掛けが仕様に盛り込まれました.

 上述のようなDVDそのものの仕様,およびDVD機器に必要となる電子部品(システムLSIや光ピックアップなど)の仕様を策定する際に大きな影響力を及ぼすのが,ここで紹介したシステム・アーキテクトです(図6)

 たとえば,MPEG2規格をどのようなハードウェアとソフトウェアの構成で実装するべきか,光ピックアップとのインターフェース仕様をどのように実現するべきか,規格の互換性テストをどのような手順で行うべきか,といったことを検討します.もちろん,電子回路,ソフトウェア,機構部品など,さまざまな知識が必要となります.その一方で,細部にとらわれず,全体を見渡せるバランス感覚も必要とされます.

 さて,このシステム・アーキテクトという肩書きは,米国では確固とした地位を得ているのですが,どういうわけか日本ではなかなかお目にかかれません.では,日本にはシステム・アーキテクトが存在しないのでしょうか.いえいえ,そのようなことはありません.システム・アーキテクトに相当する仕事をしている人はいるのですが,それが回路設計者のなかにいたり,ソフトウェア開発者のなかにいたり,設計管理者(マネージャ)のなかにいたりするのだと思います.つまり,日本では仕様の策定やシステム全体を見通した仕様の最適化といった作業を担当する専門家が少ないのです.それだけ,日本ではシステム・レベル設計の工程が軽んじられてきた,という見方もできます.

 たとえば電子機器組み立てなどの技能レベルの検定制度があるように,設計業務についても,扱うシステムの複雑さに応じた格付けが必要なのかもしれません.もちろんシステム・アーキテクトにはそれに相応しい待遇と資格が与えられるべきだと思います.シリコンバレーのシニア・エンジニアがプロジェクトごとに厚遇を得ながら会社を渡り歩くような状況が,日本の設計現場に反映される日はいつ来るのでしょうか.

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〔図6〕DVD仕様を策定するシステム・アーキテクトたち
システム・アーキテクトは,機器の仕様,および機器に搭載する電子部品(システムLSIなど)やソフトウェアの仕様に対して大きな影響力をもつ.DVD仕様の策定では,大手電機メーカを代表するシステム・アーキテクトたちが集まり,議論を繰り返した.

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