システム・レベル設計とはなにか
●システム・アーキテクトに脚光
LSIの構造は,年々複雑になっています.たとえば,図4は,SEMATEC(半導体技術向上を目的とする米国政府と半導体メーカによる官民プロジェクト)が予測した設計生産性に関する有名なグラフです.LSIに集積できる回路規模と,1人の設計者が1ヵ月間に設計できる回路規模の推移を示しています.
〔図4〕設計生産性の危機
SEMATECが予測した回路規模と設計生産性の推移.LSIの集積度は年率58%で向上し続けるが,LSI設計者の設計能力は年率21%でしか向上しない.なんらかの改善手段を見つけないと,LSIの設計期間が延びたり,設計件数が減少すると考えられる.システム・レベル設計手法の見直しは,設計生産性を改善する手段の一つと考えられている.
この図の2000年のところを見てみると,すでに数千万~1億トランジスタを1チップに集積できる時代が来ていることになります.こうなると,昔のように,とりあえず作ってしまってから評価を始めるという手法では,まともに動くものができません.仕様が決まった段階で,それが完成したときの形状や機能,性能,操作性,発熱,電磁放射ノイズなどを,あらかじめ把握できるようにしておくことが必須です.しかし,数千万~1億トランジスタのLSI,あるいはそれを搭載した機器の完成した姿を,細部にわたって正確に予測できる人など,そうはいません.
そこで,現在,必要とされているのが「システム・アーキテクト」と呼ばれる設計技術者です.システム・アーキテクトは,ソフトウェア開発者や回路設計者など,ローカルな設計を受けもつ技術者とは役割が異なります.数千万トランジスタを集積したシステムLSIや,それを搭載した組み込み機器を開発する際に,仕様策定の段階で,ソフトウェアとハードウェアを含むシステム全体を見通しながら(分析しながら),最適な仕様を追求する設計技術者を指します.つまり,複雑なシステムLSIや,それを搭載する組み込み機器を開発するときの"かなめ"となるのがシステム・アーキテクトなのです(図5).
〔図5〕システム・アーキテクト
システム・アーキテクトは,ソフトウェアとハードウェアを含むシステム全体を見通しながら,最適な仕様を追求する.