はんだ付けとコイル巻きでモータ技術の神髄を体感 ―― CQエレクトロニクス・セミナ「実習・モータ&インバータの原理と組み立て」
CQ出版社は,2012年6月30日~7月1日,東京・巣鴨のCQ出版社 セミナ・ルームにて,技術セミナ「実習・モータ&インバータの原理と組み立て」を開催した.これはEV(電気自動車)などで使われるモータ・システムについて解説するセミナである.また,セミナの中で使用している教材「CQブラシレス・モータ&インバータ・キット」の外販も2012年7月末より開始した.
ここでは,6月30日~7月1日のセミナの様子を報告する.なお,本セミナは今後も定期的に開催する予定.
●はんだ付けとコイル巻き,実験を通してモータ・システムの挙動を理解
「CQブラシレス・モータ&インバータ・キット」は,ブラシレスDCモータ,センサ基板,ドライバ基板,マイコン基板,マイコン開発環境から構成されている.このキットを動作させるには,回路基板のはんだ付けが必要になる.電子回路は,1カ所でも接触不良や短絡(ショート)があると動かない.本キットには,はんだ付けを行う個所が300カ所ほどあり,はんだ付け作業は,中級者の方で3~4時間程度かかる.コツコツとやれば,作業そのものはそれほど難しくない.
モータのコイルも自分で巻く必要がある.モータのコイル巻きを経験したことのある方は少ないだろう.若干,腕力が必要になるが,コツが分かれば作業は早いという.モータのコイル巻きは,巻き数によって作業時間が変わるので,時間がない場合は,巻き数を10ターン(1ティース当たり)程度にする.また,コイルは何回でもまき直せる.最初は巻き数を少なくしてきちんと動作することを確認し,後から巻き直して,巻き数を増やすのもよいだろう.なお,本キットに付属するCD-ROMには,コイル巻きのお手本の動画が収められている.
このように,はんだ付けやコイル巻きを自分の手で行い,実験を行うことで,モータの原理や制御方法を直感的に理解できるようになる.例えば,以下のような疑問を,実験を通して解消する.
- モータのコイルの巻き数を少なくすると回転速度はどうなるのか?
- モータのコイルの巻き数を少なくするとトルクはどうなるのか?
- モータのコイルの巻き線の太さを変えるとどうなるのか?
- 入力電圧を変えるとモータの回転数はどうなるのか?
- モータに負荷をかけるとモータはどうなるのか?
- 回生電力はどのようにして取り出すことができるのか?
本キットに含まれるブラシレスDCモータは,EVバイクくらいには利用できるものである.熱対策を施せば,さらに出力を引き上げることも可能.さらに,このモータは発電機として動作させることもできる(つまり,さまざまなパワー・エレクトロニクスの実験に利用できる).
●1日目:インバータの原理を学び,基板をはんだ付けして組み立てる
「実習・モータ&インバータの原理と組み立て」は2日コースのセミナである.上述のキットを2日間で組み立て,またモータの原理についても解説する.今回のセミナは11人が受講した.
セミナの1日目はインバータの解説が中心だった.午前中は,インバータの役割と動作原理を学ぶ講義が行われた(写真1).ブラシレスDCモータは,インバータによって直流電源から生成された3相交流を入力して回転制御を行う.交流とはいっても,一般にPWM(パルス幅変調)を利用した疑似的な交流を使う.ON/OFFスイッチイング制御を行い,この制御を担うのがマイコンである.
午後からいよいよ,はんだ付け作業に入った.まずは初心者にも分かるように,講師がはんだ付けのコツを解説する.やけどやけがをしないように,作業上の注意事項を念入りに説明してから作業を開始した(写真2).
受講者が作業している机を講師が回り,それぞれのはんだ付け状態の良否をチェックしていく.はんだ付け作業は,すぐにはうまくなれない人もいる.しかし,講師のアドバイスを受けたり,うまい人のやり方をまねることで,早くコツがつかめるようだ.
3時半~4時ころには,はんだ付け作業をひと通り終える受講者が出てきた(写真3).はんだ付けが終わったら,まずは目視でチェックする.大丈夫だと判断すると,回路基板に電源と講師が用意した完成版のモータをつなぐ.スイッチを入れてボリュームをゆっくりと回し,モータが回れば回路基板は完成である(写真4).
ただし,多くの受講者は,一発では動かなかった.動かないときは,必ず動かない理由がある.その理由のほとんどは「はんだ付け不良」だった.とくにグラウンド面に接続している端子は配線パターンに熱を吸い取られ,はんだ付けがなかなかうまくいかない.「この部分はちょっと怪しいかも...」と思った部分は,たいていはんだ付けがうまくいっていなかった.
次に多かったのが,部品の向きの間違いである.電解コンデンサの極性を間違えたり,マイコン・ボードの向きを逆に装着したり,といった例があった.基板の表から見た配置と裏から見た配置を勘違いするケースもあった.
このほか,短絡による不良もあった.リード線が長すぎて,隣の配線にごくわずか接触していても短絡を起こす.
問題なくモータが回った回路基板から順に,オシロスコープでPWM波形を観測した(写真5).