「ユーザ参加型」のオンライン学会を開催 ―― 第1回ニコニコ学会βシンポジウム

Tech Village編集部

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レポート 2011年12月22日

 2011年12月6日,ニコファーレ(東京都港区)にて,ユーザ参加型のオンライン学会「第1回ニコニコ学会βシンポジウム」が開催された(写真1).本イベントは,2011年11月に設立された「ニコニコ研究会」の設立記念イベントとして開催された.

 

写真1 第1回ニコニコ学会βシンポジウムの会場
ニコファーレは,ドワンゴが運営するイベント会場である.ドワンゴの子会社であるニワンゴは動画投稿共有サービス「ニコニコ動画」を運営しており,この会場で行ったイベントは「ニコニコ生放送」というサービスを通じて生中継することも可能.今回のイベントもニコニコ生放送で生中継され,オンラインで視聴している人の書き込んだコメントが,ほぼリアルタイムで会場に表示された.

 

 

 最初に,ニコニコ研究会 委員長の産業技術総合研究所 江渡 浩一郎氏が,ニコニコ研究会を設立した経緯について語った(写真2).現在は,ユーザ自身が作り手としてコンテンツを発表する「ユーザ参加型コンテンツ」全盛の時代であり,これからは研究もユーザ参加型で行われる時代になるのではないかと考えたという.そこで,「未来を予測する最善の方法は,自らそれを作り出すことである」というAlan Kay氏の言葉に従い,ユーザ参加型の研究を作り出すべくニコニコ研究会を設立した.そして,その理念を伝えるために,本イベントを開催したという.

 

写真2 ニコニコ研究会 委員長の産業技術総合研究所 江渡 浩一郎氏
同氏は学生時代に,任天堂のとあるゲーム・ソフトを開発した経験を持つ.任天堂トップのクリエータからじきじきに教わったことが,貴重な経験となったという.この研究会でも,ユーザとプロの研究者が交わることにより,すばらしい成果が出てくることを期待しているとのこと.

 

 

 本イベントでは,ユーザ参加型コンテンツで成果を挙げた人による発表や,具体的な研究の例としてユーザ・インターフェースの研究者による発表,ネット上で活動している研究者による発表などが行われた.

 

●「クリエーティブ」ということを考える

 第1のセッション「作るを作る」には,ドワンゴ 代表取締役会長である川上 量生氏と,チームラボ 代表取締役社長である猪子 寿之氏が登壇し,講演と対談を行った(写真3).対談では,「クリエーティブ」とはどういうことか,芸術性を持つ「コンテンツ」とは何か,日本人にしか受けない特殊性というものがあるのかなどについて,川上氏と猪子氏が議論を戦わせた.両氏のユニークなやりとりに,会場は何度も笑いに包まれた.

 

写真3 対談を行うドワンゴの川上 量生氏とチームラボの猪子 寿之氏

 

 

 日本人には,ネットで発表しているにもかかわらず海外に打って出ない傾向があるがどう思うか? という問いに,川上氏は,「文化的成熟度によって,異なる文化を受け入れる余地が異なるのではないか」と答えた.ポケット・モンスターやiモードは海外ではヒットしないと言われていたが,米国の若年層には流行した.「逆に,ニコニコ動画は理解するのに時間がかかるから,海外でもいけるのではと思う」(川上氏).

 猪子氏は「自分のコンテンツは,海外でも売れる」と迷わず言い切る.「だって,触って(チャリンと)音が鳴れば,全員楽しいでしょう」(猪子氏).

 ただし,「チャリン」という効果音は文化的依存から生まれたものであり,日本には擬音語や擬態語があったから,ゲームやまんがが成熟したのだという.また,現在,最新の擬態語を作っているのは,アキバのメイドさんたちであるという.

 川上氏は「人間は,分からないものを神秘的,高尚だと思う傾向がある.ハリウッドでは物語も工学的に作っているが,猪子さんは,分からないもの,つまりアート的なものを作っている」と述べた.猪子氏は,「西洋文化の裏に自然科学があったように,ディジタル技術の裏側に抽象概念があると思っている.自分はそれを展開している」と述べた.

 

 

●クリエーティビティからジェネレーティビティへ

 第2のセッション「作るアーキテクチャを作る」には,クリプトン・フューチャー・メディア 社長の伊藤 博之氏とドワンゴの戀塚 昭彦氏,日本技芸 リサーチャーの濱野 智史氏が登壇した(写真4).

 

写真4 (右から)クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤 博之氏とドワンゴの戀塚 昭彦氏,日本技芸 リサーチャーの濱野 智史氏

 

 

 

 

 ソフト音源「初音ミク」の開発元であるクリプトン・フューチャー・メディアは,初音ミクのイラストを利用した2次創作に対して「個人や同人サークルなどによる,非営利かつ無償の利用であれば,2次創作物の作成や配布を基本的に認める」とした利用許諾契約(「ピアプロ・キャラクター・ライセンス」と称する)を公表した.また,2次創作物をさらに利用したn次創作を行いやすくするため,最初から2次創作可のコンテンツのみを集めたコンテンツ投稿サイト「ピアプロ」を立ち上げた.

 ピアプロ・キャラクター・ライセンスを公表した理由について,伊藤氏は「2次創作がめちゃくちゃ面白かったので,それをバックアップするしくみが必要だと思った」という.また,ピアプロについても,利用しやすく,またお礼の気持ちも手軽に伝え合えるようなしくみとして用意したという.

 戀塚氏は,ニコニコ動画の荒らし対策として2011年10月に追加された「NG共有機能」について説明した.ユーザがそれぞれ不快と感じるコメントをNG登録し,閲覧時にNG共有レベルを設定することにより,不快と感じる可能性のあるコメントを非表示にすることができる.NG登録されるとコメントと発言者(ユーザID)に不快指数を表すスコアがつき(スコアが減る),スコアに基づいて,そのコメントをどのNG共有レベルで表示/非表示にするかが決まる.

 管理者が削除するのではなく,ユーザがお互いにNGを指摘することにより,民主主義的に解決できるのだという.また,発言者についたスコアは,毎日少しずつ回復してくるので,ほとぼりがさめるとまたコメントが表示されるようになる.濱野氏はそれを「ゲーム的」と表現した.

 ニコニコ動画のサービスが大きく変わったのは,初音ミクの登場によるところが大きいという.それまでは違法動画が多かったが,初音ミク登場以降はオリジナル作品が増えていった.また,初音ミクのライセンス提供に関して想定外だったのは,ゲームに使いたいという要望が来たことだという.その時点ではゲームはライセンス対象外だったが,許諾した数日後に,初音ミクの3D動画を手軽に作れるフリーウェア「MikuMikuDance(MMD)」が公開された.「想定外のことも受け入れられるように線引きを大きくとっておいて創作の余地を残すことが重要」(伊藤氏).

 

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