米国発クリーンテック便り(6) ―― ギガワット級の太陽熱発電所を建設,分散型発電の課題に対応できる送電網を構築へ
●分散型発電プラントが増加した結果,電力網の双方向性が問題に
米国では2010年に合計で1ギガワット程度の太陽光発電による電力がグリッド(電力網)に新規に接続されました.原子力発電所1基分に相当します.これは,前年(2009年)の約2倍にあたり,今後どんどん増えていくことでしょう.
1カ所で数百メガワットや1ギガワットを生み出す大型太陽光発電所よりも,数十メガワット規模のDistributed Solar Power Plant(分散型太陽光発電プラント)が増えています.これらが今後の安定供給に寄与すると同時に,電力網の不安定要因にもなりえます.今後これらの中規模の発電所を,電力会社がいかにコントロールするかが非常に大事になってきています.
現在の電力網は双方向性を考えて作られていません.また,太陽光発電パネルそのものにはインテリジェンスがないので,インバータがその役割を担う必要があります(インバータとは直流電力を交流電力に変換し,かつ電力網につなげるための各種の制御を行う装置.日本ではパワー・コンディショナとよぶことが多い).
米国には,電力網への接続には,現在IEEE 1574とUL 1742という標準規則があり,電力網につながる全てのインバータはこれを守らなければいけません.しかしこの規則は,現在のような数多くのDistributed Solar Power Plantが電力網につながることを想定していません.連邦政府はこの問題に対処するため,エネルギー省が中心になって,2008年に「Solar Energy Grid Integration System(SEGIS)」というプロジェクトを立ち上げました.
SEGISは2015年をめどに,電力網と発電所(もっと細かく言うとインバータ)の双方向の通信/制御システムを軌道に乗せる予定です.例えばインバータが壊れて,周波数や位相がずれた電力を電力網に送り込まれたら,たまったものではありません.もし大規模停電が起きた場合,どういう順序でどの発電所から順番に立ち上げて行くかなども,中央制御する必要があります.
米国では,今後4~5年で,中規模(数十メガワット)の再生可能エネルギー発電所が数百カ所~千カ所でき,電力網につながる予定です.これらの管理は壮大な仕事ですが,ぜひうまく動いてほしいと思います.
●エジソン,テスラ以来の発電・送電の歴史が次の20年で大きく変わる
シュワルツェネッガー知事から今年変わったカリフォルニア州ブラウン知事は,カリフォルニア州での再生可能エネルギーでの発電目標を2020年で33%にすることを正式に法令化しました.ブラウン知事の2020年時点での計画は,太陽光で12ギガワット,太陽熱で8ギガワットとなっており,これに風力が加わります.また,期限は決まっていませんが,次の目標を40%とする意向を発表しています.
上記の送電,発電,その管理の推進は,私たちが否が応でも新しい世界に入ったことを感じさせます.エジソン,テスラ以来の130年間の発電・送電の歴史が,これからの20年で大きく変わるのです.
10%だと「その他」扱いですが,33%や40%ともなると名実ともに主力の電力です.そのために電気代が2倍になろうとも,やり遂げてほしいと考えています.原子力発電も,順次ストップしてほしいと思います.電気代が2倍になれば,人間は使う電気を半分にするための工夫を考えるものです.
参考文献
(1)Shirley Siluk;Combining Three Regional Grids into One US-Wide Grid,IEEE SMARTGRID,http://smartgrid.ieee.org/news-smart-grid-newsletter/4317-combining-three-regional-grids-into-one-us-wide-grid
さかぐち・ゆきお
yukio@sakaguchi.org
http://d.hatena.ne.jp/YukioSakaguchi/
◆筆者プロフィール◆
阪口 幸雄.シリコンバレー在住25年.もともと半導体技術のベテランで,CQ出版が発行していたDesign Wave Magazineにも数度登場.最近,環境技術をあれこれ勉強中.「地球環境を守ることとビジネスの発展は両立する」がモットー.