iPhoneと組み込み技術で未来を考える(6) ―― iPhone,iPadを活用した家庭用ロボット・パートナ

久保田 直行

tag: 組み込み

コラム 2011年1月14日

 次に,Macintosh Color Classicの筐体を用いたロボット「MOBiMac」を改造した「MOBiPad」を図7に示します.これは,MOBiMacの前面部の8インチ程度のUSBディスプレイの代わりに,iPadを内蔵したものです.筐体の中には,MacBookのロジック・ボードのほか,制御用マイコンなどが入っています.現在,iPadには,カメラは搭載されていませんが,近い将来,カメラが搭載されることと思われます.iPhoneをフル活用することにより,ロボットの小型化や軽量化のほか,センサを大幅に削減できます.

 

図7 Macintosh Color Classicの筐体を用いたロボット・パートナ

(a) USBモニタ・バージョン


(b) iPadバージョン


(c) MOBiMacの内部


 このようにiPhoneをセンサ部として活用した場合,ロボットに必要なセンサとして,測距センサや測域センサ,低価格化が進む3D距離画像センサなどを搭載すれば,家庭用ロボットとして必要なデータを取得できます.また,iPhoneなどが搭載されていないときも,距離情報を用いることにより,障害物を回避したり,卓上からの落下を防止することができます.

 次に,アクチュエータ部について考えてみます.低価格・小型化を目指したサイズで,かつ,基本的にiPhoneやiPadを搭載して用いることを前提とすると,リビング・ルームのテーブルや書斎の机上での使用がメインになるでしょう.従って,最低限のスペックを考えると,車輪による移動機構は不要になると思われます.また,iPadは比較的大きいので,車輪による移動機構を用いないのであれば,安定性を強化するために,据え置き型で大きめの台座を用いたほうがよいでしょう.据え置き型にする利点は,直接,家庭用電源に繋げるので,バッテリを搭載する必要がなくなることです.

 一方,iPhoneやiPadの画面を用いて,ユーザとコミュニケーションを行うことを考えてみます.タッチパネル内の2次元の世界に没入することなく,3次元の世界の中で手振りや身振りを用いたノンバーバル・コミュニケーションを行うためには,最低限,2本のアームが必要になります.実際,2本の手を用いた手振りを併用することで,ロボット・パートナから表出する画像情報や音声情報の意味を強めたり,弱めたりすることができます.

●ライフ・ハブとしての家庭用ロボット・パートナの構造

 iPhoneやiPadなどのデバイスを日々持ち歩くようになった現状を考えると,これらの機能を拡張するような方向の先にロボット・パートナがあってもおかしくありません.iPhoneやiPadは,ヒューマン・インターフェースとして,マルチタッチなどをフルに活用したシステム構成を採っています.こうしたタッチ・インターフェースに追加するかたちで,対話に基づくバーバル・コミュニケーション,身振りや手振りに基づくノンバーバル・コミュニケーションを併せ持つロボット・パートナは,さまざまな方法でインタラクションする機会を与えてくれます.

 本連載コラムでは,iPhoneをインターネットへのアクセスや部屋の中の情報家電の制御,さらには,遠隔地に住む家族や友人と繋がることを可能にするライフ・ハブというように位置づけてきましたが,ロボット・パートナにiPhoneを実装することにより,ロボット本体も身振り・手振りを伴うライフ・ハブとして機能するようになります.毎朝,iPhoneを用いて行っているお天気情報や最新のニュースの取得は,朝食時のロボット・パートナとの対話により行われ,また,対話のログから,通勤時にiPhoneで読みたいニュース記事のダウンロードなども可能となるでしょう.また,間接的には,対話のほか,ジェスチャやアイ・コンタクトなどのノンバーバル・コミュニケーションに合わせて,インターネット上から情報を収集し(文字通りの「検索ロボット」),それをユーザの意図に合わせて,分かりやすく加工して提示してくれるでしょう.さらに,ロボット・パートナがユーザのライフ・ログや嗜好などを参照できるようになれば,趣味に関する最新情報の案内や地域のイベントの案内など,日々の生活を豊かにするさらなる情報サービスが可能になります.

 しかし,家庭用ロボットへの要求は,明確には分かっていないのが現状です.言い換えると,家庭用ロボット・パートナの仕様を,ユーザの要求に合わせてカスタマイズする柔軟な対応が必要になります.自動車のように本体そのものにオプションを取り付けることを前提に設計すると,ロボット本体のハードウェアのモジュール化を進めなければなりません.これは,小型化・低価格化とは相反する方向です.

 上述のBIOLOIDで用いられているアクチュエータはモジュール化されているため,個人でも取り付けることができますが,やはり安全性や耐故障性などを考慮すると,ロボット本体へのハードウェア的な追加・削除は,できるだけ行わない方がよいでしょう.また,ロボット・パートナを使い続けるうちに更新したくなるのは,アクチュエータよりも,人とコミュニケーションするための対話機能や各種学習機能であると思われます.ロボットの計測に必要なセンサや各種処理に必要な計算をiPhoneに委ねることにより,個人で用いる携帯電話の更新に伴って,システムの高機能化が行えるのも利点の一つとなります.

 現在,携帯電話は,日々の生活で用いる道具の一つとして定着化してきました.携帯電話はないと不便を感じますが,このような家庭用ロボット・パートナを用いた情報サービスは本当に必要なのでしょうか? 誰にとって必要なのでしょうか?

 次回は,ロボット・パートナが必要となるシーンを考えながら,ライフ・ログの計測を可能にする組み込みシステムについて考えたいと思います.


●参考・引用*文献
(1)* 経済産業省;ロボットの将来市場予測を公表,2000年4月,http://www.meti.go.jp/press/20100423003/20100423003.html
(2)* CNET Networks;ソニー「AIBO」の歴史に幕--7年間に全世界で15万台,2006年1月,http://japan.cnet.com/news/tech/20095312/
(3)* JIS規格用語のWebサイト,http://rbt.jisw.com/01110/post_3.html
(4)* 石田英敬;『現代思想の地平』,日本放送出版協会,2005年.
(5)* 東京理科大学 小林研究室のWebサイト,http://kobalab.com/
(6) 佐藤知正;「空間知能化ロボティクスとその応用産業市場」,東芝レビュー,Vol.64,No.1,pp.8-13,2009年.

 

くぼた・なおゆき
首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 准教授

 

◆筆者プロフィール◆
久保田 直行.1997年,名古屋大学大学院工学研究科 マイクロシステム工学専攻 博士後期課程修了.博士(工学).1997年,大阪工業大学工学部 機械工学科助手,1999年,同講師.2000年,福井大学工学部 知能システム工学科助教授.2004年,東京都立大学大学院工学研究科機械工学専攻 助教授となり,2005年,首都大学東京システムデザイン学部 ヒューマンメカトロニクスシステムコース 准教授,現在に至る.その間,2002年から科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業研究員,2006年~2008年に同事業発展研究研究員兼任.2007年からポーツマス大学客員教授.2009年から韓国ソウル大学客員教授.

 

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