携帯電話内部の高速データ転送,次の主役は「MIPI M-PHY」―― 広範なアプリケーションを見据えた多芸多才の標準規格

Ashraf Takla,George Brocklehurst

tag: 半導体 実装

技術解説 2010年10月 7日

●携帯電話の複雑な回転機構に対応可能

 M-PHYのような強力な物理層インターフェースの規格が策定されたのは,消費者が興奮するような新機能を開発しなければならないから,という理由だけではありません.携帯電話の信頼性を改善する,という理由もあります.クラムシェル型(折りたたみ)携帯電話のヒンジ部の接続には,機械的なストレスに耐えうる柔軟性,アプリケーションの要求を満足する高速データ転送,そして確実にデータを受け取れる高い信号品質が要求されます.

 加えて,物理層インターフェースは,電力消費と電磁放射ノイズを最小限に抑えなければなりません.接続媒体には,伝統的に1mm未満の薄い銅配線が使われてきました.ハンドセット(送受話器)のデザインの妨げとならないように,また信号品質(シグナル・インテグリティ)に起因する不具合が残らないように,できるだけ少ない配線で接続する必要があります.これを実現することで,高速シリアル・インターフェースとしての魅力が高まります.

 光リンクを利用すれば,優れたノイズ耐性とともに,堅ろう性や機械的な柔軟性を実現できます.また携帯電話の中には,複雑な構造のヒンジ(回転ヒンジなど)を備えているものがあります.こうしたヒンジは,角度によってビューワに対して異なる制御を行います.ディスプレイが小さいとき,また利用者の目や首のストレスを減らさなければならないとき,このような機能はとても重要です.複雑な2軸回転機構の例を写真1に示します.


写真1 最先端の携帯電話は回転機構を備えている
このような構造の場合,ディスプレイとプロセッサの間の配線に機械的なストレスが加わる.(出典:Nokia社)

 

 写真1の機種は,まず普通のおりたたみ携帯電話のように開閉し,続いてディスプレイを回転させて角度を変えられます.ヒンジを通過する信号線のデータ転送速度と接続部の機械的強度は,その信号線の本数,および信頼性を維持するために使われる材料に左右されます.

 光伝送が使えれば,これまでの常識を打ち破ることができ,ハンドセットの外観デザインの問題とシステム・アーキテクチャを切り離すことができます.そして,ヒンジや機能,物理的な形状に関係なく,多くのハンドセットのモデルを一つのプラットホームから構築できるようになります.

 長年,光伝送部品は,消費電力とコストの観点から不利であると見られてきました.そしておおむね,これは真実でした.というのは,消費者向けの携帯機器では,数ドルのコストの追加や数mWの消費電力の上昇を容認できないからです.しかし,シリアル化が進み,データ転送速度が上昇した結果,銅線による伝送は,光伝送と横並びで比較されるところまで来ています(現状は最大3Gbps).そして,銅線による伝送には,光伝送のような利点はありません.その上,光伝送を利用すると伝送速度当たりのコスト(ドル/Gbps)や消費電力(mW/Gbps)を改善できます.

 今後のロードマップによると,銅線による伝送は限定的に利用され続けることになりそうです.加えて,光伝送部品が,大量生産品である携帯電話のごく一部の機種に採用されるだけでも,これまで比較的少量の部品を取り扱ってきた光PHY業界のコスト・モデルに多大な影響を与えます.そして,光モジュールの価格の下落や性能の改善が急速に進む可能性があります.

 こうした市場の変化に対応するため,MIPIアライアンスのPHY作業部会は先手を打って光伝送に関する小委員会を立ち上げ,OMC(Optical Medium Converter)仕様を策定しました.これは,M-PHY送信器(M-TX)が出力した電気信号を光信号(光波)に変換したり,光信号をM-PHY受信器(M-RX)に入力できる電気信号へ戻したりするもので,これを利用することにより,プラスチック光ファイバ(POF)のような媒体で信号を伝送できるようになります.

 OMCはいわゆる「モジュール」で,分離できない一つの部品です.これは,それぞれ専用の光素子を持つ光送信器(O-TX)と光受信器(O-RX),光導波路から構成されます.OMCは単独の部品であり,光モジュール間の相互接続性の問題は存在しません.従ってMIPIでは,光伝送の領域について細かく言及することはありません.

 これらの「モジュール」は,SONET/SDHなどの高速光伝送の領域,およびEthernetやFibre Channel,OIF(Optical Internetworking Forum)-CEI(Common Electrical I/O)の構成要素の一部としてよく知られています.OMCモジュールとの電気的接続の例を図4に示します.


図4 携帯電話の電気-光インターフェースを定義したMIPIのOMC(Optical Medium Converter)モジュール
(出典:MIPIアライアンス)

 

 高解像度のビデオ撮影・表示のアプリケーション,およびこれらに対応したサブシステムがさらに多くの電力を消費するようになれば,従来の銅線による伝送では,どこかで電源の低電圧化の限界が来るでしょう.そうなると光伝送の優位性はさら高まります.

 銅線と光ファイバのどちらを使うにしても,M-PHY仕様は,最小の消費電力と最小のコストで高速なデータ転送を実現できる柔軟なアーキテクチャとなっています.「どこでも,だれでも,自由に周囲の機器やサービスとワイヤレス接続」という観点では,HD(High Definition)ストリーミング・ビデオを配信したり,Gバイトの映像を(インターネットから)転送したりといった挑戦的な取り組みは,M-PHYのような最適化されたチップ間インターフェースがあってはじめて実現できるのです.

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