環境発電(エネルギー・ハーベスト)を利用したシステム開発 ―― ワイヤレスとバッテリレスを組み合わせてビル設備のエネルギー消費を大幅削減
●難しい技術が使われているわけではない
EnOcean社の無線モジュールにも,いくつかの課題があります.
まず,データの暗号化の問題が挙げられます.例えばドアや窓の開閉情報の検出などで使う場合は,暗号化が必要になります.現状では,上位のマイクロコントローラで暗号化し,暗号化済みのコードを送信するという対策が考えられます.
また,この無線モジュールは大容量の通信には向いていません.データ量が増えた場合は通信回数が増え,電力消費量が増大してしまいます.これについては,他の無線方式と併用し,コンカレントな通信を行って補うなどの対策が考えられます.
現状,ビル設備では,スイッチ(例えば照明や空調のスイッチ)の配線に多くの場所を取っています.これらをワイヤレス化することで,配線ケーブルの量を減らせます.また,無線モジュールにバッテリを搭載した場合,これらの交換や保守が問題となります.こうした問題も,環境発電の技術を導入することで解消できます.
重要なポイントは,このような無線モジュールが「アイデア」から生まれた製品であり,別段,難しい技術が使われているわけではないということです.発電に使っている磁石とコイル,太陽電池,ペルチェ素子などは昔からあるもので,新しい技術ではありません.無線モジュールによって信号を送信するのに必要なエネルギーはごくわずかです.そして,この信号によって大量のエネルギーを消費する大規模システム(ビル設備など)を細かく制御することにより,全体のエネルギー消費を大幅に低減できるわけです.
「バッテリレスとワイヤレスの組み合わせがエネルギー問題を解決する」.筆者はそう考えています.
かけた・のぶゆき
加賀電子(株) 技術統括本部 テクニカルマーケティング部 FAE課
◆筆者プロフィール◆
懸田 信行(かけた・のぶゆき).1972年生まれ.加賀電子へ入社後,無線LAN,ZigBee,独自無線,RFIDなど,無線全般のFAEに従事し,販売・サポートを行う.EnOceanについては,2009年より拡販・サポートの活動を行っている.