環境発電(エネルギー・ハーベスト)を利用したシステム開発 ―― ワイヤレスとバッテリレスを組み合わせてビル設備のエネルギー消費を大幅削減
●バッテリレスで数十mの通信が可能
よく引き合いに出される無線技術として,Bluetoothや無線LAN,ZigBeeなどがあります.Bluetoothは携帯電話や車載機器のハンズフリー,AV楽曲再生のヘッドホンに採用されています.無線LANはパソコンやプリンタなどのOA機器に採用されています.ZigBeeはテレビのリモコンなどに利用されています.このほか,コードレス電話やワイヤレス・マウスなどに使われている2.4GHz帯の独自の無線規格があります.これらの無線技術を採用した製品のほとんどは乾電池や充電池(2次電池)を備えており,バッテリレスになっているものは見かけません.
パッシブ型のRFIDは,リーダからの電磁波を用いて電力を供給するので,バッテリレスになっています.ただし,通信距離は数cm程度です.
環境発電を利用するEnOcean社の無線モジュールは,同社が開発した独自の方式を採用しており,バッテリレスで数十mの通信が可能です.図5に,環境発電を利用した無線モジュールの応用分野を示します.
図5 環境発電を利用した無線モジュールの応用分野
●4種類のモジュールと2枚の評価ボードを用意
環境発電を利用したEnOcean社の無線モジュールおよび評価ボードについて説明します.
同社の無線モジュールには,発電機能を備えた送信モジュールと,送信モジュールの信号を受ける受信モジュールがあります.送信モジュールは2種類あり,一つ目は磁石とコイルを主体としたスイッチを搭載した送信モジュール,二つ目は太陽電池を搭載した送信モジュールです.このほか,昇圧用のモジュールや評価ボードなどが用意されています.
以下では,各モジュールおよび評価ボードの機能について説明します.
1) PTM(Pushbutton Trancemitter Module)
PTMは,磁石とコイルを主体とする無線スイッチで,主に発電部分と通信部分から構成されます(写真1).
写真1 PTM
磁石とコイルで起電し,ボタンのON/OFFを無線で知らせる.
起電できた電力量にもよりますが,1回の起電に対して最低でも3パケット,残電力があればさらに1~3パケットの送信が行われます.また,発信するパケットの時間間隔が規定されています.一つ目のパケットと二つ目のパケットの間は5ms,二つ目のパケットと三つ目のパケットは10ms,三つ目のパケット以降(最大六つ目まで)は0.75ms以下となっています.
2) STM(Scavenger Transceiver Module)
STMは,主に太陽電池などで起電した電力を使用して,データを送信します(写真2).1回の送信で8ビット×4ブロック(4バイト)を送信でき,データの配列は自由に設定できます.パケットの仕様については,後述します.
写真2 STMとTCM
左側がTCM(受信モジュール),右側が太陽電池やペルチェ素子などで起電するSTM(送信モジュール).
3) TCM(Tranciever Module)
TCMは受信用のモジュールです(写真2).評価キットでは受信専用となっていますが,実際には送信・受信の両方が可能です.
4) STMの評価ボード(EVA320-2)
STMの動作を確認するための評価ボードが用意されています(写真3).太陽電池パネルからの出力をキャパシタへ蓄電し,STMを動作させます.温度や照度,電圧のデータを送信できます.送信間隔は,1秒ごと,10秒ごと,100秒ごとのいずれかを選択できます.
写真3 STMの評価ボード
基板左下の太陽電池で起電し,センサの情報を送信する.
5) TCMの評価ボード(EVA300-3)
TCMの動作を確認するための評価ボードが用意されています(写真4).電源にはUSB給電を利用しています.また,データはシリアルからUSBに変換してホスト・パソコンへ転送します.パソコンにはUSB-シリアル変換ドライバをインストールする必要があります.受信データはターミナル・ソフトウェアなどで確認します.また,受信するモジュールの種類を制限したり,PTMからの信号によってLEDの表示レベルを変更するなどの設定が可能です.
写真4 TCMの評価ボード
受信モジュールが受け取ったデータをUSB経由でパソコンへ転送したり,ボード上のLEDを点灯させたりできる.
6) DC-DCコンバータ・モジュール(ECT300-2)
20mVから昇圧可能なDC-DCコンバータが用意されています(写真5).これを使用すると,ペルチェ素子による発電とデータ送信が可能となります.STMの評価ボード(EVA320-2)に接続して使用します.
写真5 DC-DCコンバータ・モジュール
これをSTMの評価ボードに接続すると,20mVからの昇圧が可能となる.