環境発電(エネルギー・ハーベスト)を利用したシステム開発 ―― ワイヤレスとバッテリレスを組み合わせてビル設備のエネルギー消費を大幅削減
「環境発電」の技術に注目が集まっています.環境発電は,エネルギー・ハーベスト,あるいはパワー・ハーベストとも呼ばれ,文字通り電力を自然界から"収穫(harvest)"して動作するバッテリレスのシステムを実現する技術です.例えば,物理的なスイッチのON/OFF動作を電気エネルギーに変換し,これによって得られた電力を使って,モニタしていたスイッチの情報をワイヤレスで送信するシステムを実現できます.ここでは環境発電技術の応用例として,ドイツEnOcean社の無線モジュールを利用したシステム開発について解説します.(編集部)
皆さんは「環境発電(エネルギー・ハーベスト)」という言葉をご存じですか?
環境発電とは,自然界に存在するエネルギーを使って発電することを言います(図1).例えば太陽光発電や風力発電,ダムなどの水力発電があります.身近なところでは,電子ライタやソーラ電卓なども環境発電を利用しています.このようにさまざまな自然のエネルギーを電気に変え,その電気を利用して人間の住みやすい環境を作り出しています.
最近になって,この環境発電を利用する,環境にやさしいシステム設計が世界中で注目を集めています.日本では2010年4月から「改正省エネ法」が施行され,総床面積で300m2以上の中小規模の建築物を対象として,新築の際には所轄の行政庁に対して省エネ措置の届出と定期報告が義務づけられました.これらの対策として,LED照明が導入されたり,総電気使用量を制御,あるいは見える化するシステムが開発されています.併せて,環境発電技術の研究・開発も進んでいます.
ここでは,ドイツEnOcean社が開発している環境発電技術を例に,環境発電の概要について解説します.
●まずはビル設備の自動化でエネルギー削減
EnOcean社は,エネルギーを電気に変えるところに着目し,その電気を使って無線通信を行うことで,さまざまな新しいアプリケーションを開拓しようとしている企業です.例えば,磁石とコイルを使って発電するシステムや,ペルチェ素子を利用して温度差を電気に変換するシステムの開発を進めています.また,低消費電力で動作する無線システムの技術も持っています.
同社は,特定小電力の無線システムと発電素子で起電した小容量の電力を組み合わせることで,バッテリレスかつケーブルレスの遠隔制御用スイッチ(無線スイッチ)を開発しました.また,太陽電池と組み合わせて利用できる無線モジュールも出荷しています.これらの製品は,主に欧州で採用が始まっています.具体的には,ビルの照明用スイッチの配線を無線化したり,定期的な情報収集を行う空調機器などのセンサの配線を無線化しています(図2).
ビル設備管理用ネットワークのプロトコルとして,BACnetやLON(LonWorks)といった規格があります.こうしたネットワークの一部として,同社の無線モジュールを利用するためのブリッジ製品を出荷しています.また,同社の技術は,工場内の作業員の通知用スイッチや,照度センサを利用したブラインドの制御システム,窓の開閉通知を行うセンサなどの配線を無線化する用途にも利用されています.
こうした技術を活用することにより,ビル設備建設時の材料コスト,運用時の電池などの消耗品のコストが大幅に削減され,省エネの効果が見えてきます.例えば米国では,ビル設備で消費されるエネルギーは,全エネルギー消費の38%を占めると言われています(図3).また,2030年には,2003年の2倍のエネルギー需要があると言われています.さらに,オフィス・ビル設備の自動化を進めると,現状の30%程度のエネルギーを削減できるとも言われています(図4).