超低電圧昇圧電力管理ICを開発してエナジー・ハーベスティングの普及を後押し ―― 「ETアワード2012」受賞企業インタビュー(3) 富士通セミコンダクター

Tech Village編集部

一般社団法人 組込みシステム技術協会(JASA)は,「ETアワード2012」の受賞者を発表した.
ETアワード2012の「スマートエネルギー部門」では,富士通セミコンダクターの「エナジーハーベスティング電源IC技術によるエコ&スマートLED照明ソリューション」が優秀賞に選ばれた.ここでは,このICの開発にたずさわった同社の岩田 宏之氏(写真1)に話をうかがった.


写真1 富士通セミコンダクター アナログ事業部 新規ビジネス担当部長の岩田 宏之氏



―― ETアワード2012スマートエネルギー部門の優秀賞を受賞したソリューションの概要を教えてください.

岩田氏:エナジー・ハーベスティング(環境発電)用のICを活用し,太陽電池を搭載した無線リモコンで,LED照明を制御するシステムです.リモコンの照度センサによって,部屋の明かりを一定に保つようにします.リモコンには,マイコンやセンサ,無線LSIが搭載されています.その,すべてのLSIが電池なしのゼロ・パワーで駆動します.供給電圧が不安定な太陽電池だけで,すべてのLSIを安定駆動できているのは,「超低電圧昇圧PMIC(Power Management Integrated Circuit)」を開発できたからです.また, PMICのほか,低消費電力のARMマイコン,LED照明用ドライバICは当社の製品です.このPMICは,来年(2013年)の春にエンジニアリング・サンプル(SE)を供給する予定です.

 現在,マンションの廊下などに照度センサをつけて,照明を一定の明るさに調整したりしていますが,それらの多くは有線でつながっています.このようなシステムを,ゼロ・パワーで駆動する無線のセンサ・ネットワークに置き換えたいと考えています.また,今回のシステムは電池を使用しないため,人が電池を交換しづらい危険な場所でセンサ・ネットワークを利用する用途にも適しています.

―― 今回開発したPMICの特徴を教えてください.


岩田氏:このリモコンは,屋内で使用します.蛍光灯の明るさであれば1,000ルクスくらいだと思います.従来は,蛍光灯の明るさで太陽電池を動作させても電圧が低く,安定的に3.3Vをマイコンやセンサに供給できませんでした.今回開発したPMICは,安定した3.3Vの電圧を生成します.太陽電池の出力電圧は,照明が暗い所だと約0.3V,明るいところだと2Vくらいだと思います.これを3.3Vに昇圧し,マイコンやセンサに供給します.また太陽電池は,明るい場合と暗い場合では,最大電力が得られる動作点が変化します.このPMICの特徴として,最大電力が得られる動作点を追従する回路が搭載されています.


 受賞対象となった超低電圧昇圧PMICとは別に,振動から得られる電力を安定的に供給する「超低消費電力降圧PMIC」も開発しています.振動の起電力は交流です.このPMICには整流回路が搭載され,電力を安定供給します.こちらは,屋外で水車や振動から電力を取り出し,田んぼの水温や水素イオン濃度(ph)を測定して,無線で測定データを通信するような用途を考えています.


―― なぜこのようなICを開発することになったのでしょう?


岩田氏:現在当社は,「エコロジー&スマート」をスローガンとして掲げています.そこで,すべてのものを低消費電力にし,ゼロ・パワー・プラットフォーム化を進めていきたいと考えています.また,当社は古くから電源用のICを開発しています.サーバなどの大きな電源用ICから携帯電話などの低消費電力の電源用ICまでを提供しています.今回のPMICは,携帯電話に使われているICの設計技術がベースとなっています.


―― 今後,どのような製品を開発していきますか?


岩田氏:まずは,エナジー・ハーベスティングの用途に向けた電源回路用ICのラインナップを増やして行きたいと考えています.具体的には,超低電圧昇圧PMICは動作入力電圧が現在0.3Vですが,これを0.2Vや0.1Vにも対応できるようにしたいと考えています.


 また,このようなソリューションは,電源回路だけ性能が上がっても,他のLSIの消費電力が小さくないと意味がありません.当社は2012年11月6日に発表したARM Cortex-M0+を採用した低消費電力のマイコンや低消費電力の900MHz帯特定小電力無線用ICのラインナップをそろえて,セットで提供することを考えています.さらに,エナジー・ハーベスティングに適したFRAMも用意しています.エナジー・ハーベスティングには,光が遮断され,電圧が瞬時に0Vになっても,0Vになった瞬間の情報を失わない仕掛けが必要です.


 ET2012の会場では,電池を使用しないリモコンに関心を持っていただきました.このPMICをHEMS(Home Energy Management System)やBEMS(Building Energy Management System), FEMS(Factory Energy Management System)などに利用できるのではないかと考えており,具体的なビジネスの話も出てきています.


―― 2013年のエナジー・ハーベスティングの市場や環境がどのようになると予測されていますか?


岩田氏:エナジー・ハーベスティングについて言えば,ようやくソリューションを構成するハーベスタ(高効率の太陽電池や圧電素子など)やPMIC,マイコン,センサがそろってきた感じがしています.この市場は今までにない新しい市場です.2013年は,そのソリューションでエンド・ユーザが喜んでいただける新しい製品を模索する年になると思っています.2014年には,エナジー・ハーベスティングとそれを利用したセンサ・ネットワークが普及することでしょう.

 

●参考URL
(1) Embbedded Technlogy 2012;ETアワード2012発表のページ
(2)富士通セミコンダクター;組込み総合技術展にて「ETアワード スマートエネルギー部門 優秀賞」を受賞

 

 

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