iPhoneと組み込み技術で未来を考える(4) ―― 「組み込みシステム」という視点

久保田 直行

tag: 組み込み

コラム 2010年6月 3日

●「iPhone」という視点で見ると

 本連載コラムでは,「iPhoneなら組み込み開発をどのように変えることができるのか」という視点から,iPhoneと組み込み技術の融合による未来の姿を思い描いています.従って,iPhoneを組み込み技術に生かすために,「システム」という視点から「iPhone」について考えてみます.

 まずは,iPhoneのデザインについて考えてみます.今まで,多くの方が語ってこられたように,Apple社の製品は,スティーブ・ジョブズ氏が復帰してからインターフェースへのこだわりが強くなったと思われます.iMacではシリアル・ポートやADBポートなどのレガシ・インターフェースがなくなり,その後,USB化が一気に進みました.iPodではスクロール・ホイールが採用され,iPhoneではマルチタッチ・インターフェースが導入されました.

 インターフェースを取捨選択するということは,そのデバイスが持つ機能を明確にするとともに,ある目的に特化したシステム構成が可能になります.iPhoneでは,赤外線通信機能のほか,Adobe社のFlash利用環境などが搭載されませんでした.機能やインターフェースの取捨選択は,ある意味,ユーザに使用方法のバリエーションを限定させる一方で,Apple社はこの限定されたインターフェースに卓越した操作性を付与することによって,革新的な機能を実現しています.ほかのスマートホンが,従来から利用されてきたさまざまなインターフェースをできる限り継承し,サポートしようとしていることと比べて,非常に対照的です.

 ここで上述のワインバーグが述べた「問題とは,望まれた事柄と認識された事柄の相違である」という考えに従い,iPhoneのデザインを考えてみます.例えば,望まれた事柄を「いつでもどこでも手軽に持ち運べ,パソコンのようにインターネット上の情報に気軽にアクセスできるデバイス」,認識された現状を「携帯電話ではインターネットへのアクセスが重く,パソコンには手軽な携帯性がない」というように捉えると,iPhoneはこの問題を解決する機能を実現しています.

 ここで重要なことは,望まれた事柄の中にインターフェースに関する直接的な議論が含まれていないことです.つまり,iPhoneのインターフェースのデザインには,従来のインターフェースを継承するということが目的に含まれておらず,上述の目的を実現するためのインターフェースとして,マルチタッチ・インターフェースが選択されたと考えることができるのです.あくまでも仮説ですが,「システム」という視点に立った議論の仕方の一例と言えます.

 この議論においてもう一つ重要なことは,目的と手段の階層的関係性です(3).ある問題を解決することを目的として手段を検討する場合,検討された手段が実現されていないのであれば,この手段を実現することを目的とし,トップダウン的に分解しながら具体的な手段を講じていきます(図6).


図6 目的と手段の階層的関係性
 

 


 

 例えば「いつでも,どこでも手軽に持ち運べて,パソコンのようにインターネット上の情報に気軽にアクセスできるデバイス」という目的を実現するために,「さまざまな入力や通信のためのインターフェースを併せ持つ」という手段を設定した場合,次に,「さまざまな入力や通信のためのインターフェースを併せ持つ」ことを2次的な目的として,手段として具体的なインターフェースの実装がなされます.そして,この2次的な目的を実現することを重視しすぎると,本来の目的から離れてしまうかもしれません.

 このように「システム」という視点に立つことにより,最優先される目的を実現することを大切にしながら,Apple社は従来から使われてきた多くの異なるインタフェースを提供するという手段ではなく,誰もが使いやすいインターフェースを実現してきたと思われます.

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