デバイス古今東西(13) ―― 3次元構造を採用した新興ベンダのFPGAアーキテクチャ

山本 靖

●Tabula社の製品ラインナップはハイエンド指向

 Tabula社のFPGA「ABAX」は,台湾TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.)の40nmプロセスを利用して製造されます.920個の汎用パラレル入出力ポートと48個の6.5Gbpsのシリアル・トランシーバを備えています.設計フローは既存のFPGAやASICと同じで,論理合成や配置配線の機能を備えた開発ツール(コンパイラ)が用意されます.さらに,DDR2/DDR3メモリ・コントローラ,PCI Express,1G/10Gbps Ethernet,ソフト・マクロCPU,Serial RapidIO,CPRI(Common Public Radio Interface),OBSAI(Open Base Station Standard Initiative)などのソフト・マクロのIPコアも用意されます.39万LUT(Look-up Table)を搭載した「A1EC04」のサンプル出荷は2010年第3四半期から,量産出荷は同年第4四半期から始まる予定です.

 Tabula社のFPGAとAltera社,Xilinx社のFPGAを比較することは容易ではありません.なぜならば,ゲート規模以外の構成要素が多様化しており,Altera社もXilinx社も同一ファミリ内で数多くの品種をそろえているからです.ここでは筆者の独断で,ゲート規模と高速SerDesの有無を目安に,同等品と思われるものを選択してみました.表1をご覧ください.

表1 FPGAの製品例



 

 Tabula社の「A1EC06」とAltera社のStratix IVファミリの「SGX530」は,同じTSMCの40nmプロセスで製造されています.LUT数はA1EC06のほうがやや多いのですが,高速SerDesの数は同じです.合計RAM容量とPLLの数については,Tabula社のFPGAのほうが多くなっています.Tabula社の「A1EC04」とLUT数の近いXilinx社のVirtex-5ファミリの「LX330T」を比べても,合計RAM容量とPLLの数では,Tabula社のFPGAのほうが多くなっています.

 表1に示したAltera社の「SGSB8」とXilinx社の「HX565T」は,業界では最大規模のFPGAの範ちゅうに入ります.Tabula社の「A1EC06」はそれらと真っ向から勝負しようとしているように見えます.明らかにTabula社はハイエンド指向の商品戦略をとっています.

 Tabula社はデバイスの予定価格を公表しているので,ここでは価格にも着目してみます.2,000個購入時という条件で,「A1EC02」の単価は105ドル(US $),「A1EC03」は135ドル,「A1EC04」は150ドル,「A1EC06」が200ドルと発表しています.また,「A1EC06」のサンプル価格は500ドルを予定しています.これらが真実ならば,Altera社とXilinx社にとって,かなり驚異の存在となりそうです.

●「裏の競争力」がないと同じ土俵には立てない

 FPGA市場の90%前後はトップ・ベンダの2社,すなわちXilinx社,Altera社で寡占化されています.残りは米国Actel社や米国Lattice Semiconductor社などで,そのあとに米国Achronix Semiconductor社や米国SiliconBlue Technologies社などの新興ベンダが続いています.

 過去25年を振り返ると,大手半導体メーカがFPGAへ進出してもすべて撤退していますし,さまざまなコンフィギャラブル・ロジックのファブレス半導体ベンチャの多くが頓挫しています(FPGAスタートアップの歴史については,例えばEE Timesの記事などを参照).ここには「表の競争力」の問題と「裏の競争力」の問題があります.

 「表の競争力」とは,FPGAの顧客の側から見える判断指標です.それは,上述のようなデバイスの価格だけではありません.デバイスやツールの性能と機能,それらが適切な時期に投入されるのかという供給能力,サード・パーティ・ツールやIPコアの充実度などです.

 一方「裏の競争力」は,企業の安定した財務基盤,最先端プロセスへの早期アクセス力,コストダウンの努力,イノベーション力(本コラムの第8回「FPGA新興ベンダによる創造的破壊技術の萌芽に期待」を参照)など,顧客からは直接見えにくい製品開発や生産の現場に存在します.

 あくまでも主観的な印象ですが,これから登場する新興FPGAベンダは,少なくともこういった「表の競争力」と「裏の競争力」の両方を持ち合わせていないかぎり,寡占化している2社と同じ土俵で競争することは難しいと思います.
 

やまもと・やすし

◆筆者プロフィール◆
山本 靖(やまもと・やすし).半導体業界,ならびに半導体にかかわるソフトウェア産業で民間企業の経営管理に従事.1989年にVHDLの普及活動を行う.その後,日米で数々のベンチャ企業を設立し,経営責任者としてオペレーションを経験.日米ベンチャ企業の役員・顧問に就任し,経営戦略,製品設計,プロジェクト管理の指導を行っている.慶應義塾大学工学部卒,博士(学術)早稲田大学院.

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