デバイス古今東西(8) ―― FPGA新興ベンダによる創造的破壊技術の萌芽に期待

山本 靖

tag: 半導体 電子回路

コラム 2010年1月 8日

 FPGAベンダのトップ・リーダ2社は,「競合他社志向」の戦略をとっています.本コラムの第5回(デバイス古今東西(5) ―― ドミナント・デザイン化したFPGAからは創造的破壊は生まれないのか?)で紹介したように,その戦略が保持された結果として,リーダ双方の製品は同質化していき,ドミナント・デザインとなっています.そしてドミナント・デザインがイノベーションの低下を招き,解決するのが困難な配線問題を引き起こしています.本稿では,その配線問題を低減させる潜在的な製品イノベーションともいえる要素技術や,新興ベンダによって今後遂行されそうな「創造的破壊技術の萌芽」について述べます.

●FPGAベンダの戦略は競合他社志向

 マーケティング学者のコトラーは,「顧客志向」と「競合他社志向」の戦略についてメーカ側の視点で,プラス面とマイナス面を整理しています.顧客志向では,プラス面として新たな機会が発見できることや,長期に渡って利益がもたらされる点があります.マイナス面としては,競合他社による参入を見逃してしまい,結果として競合参入者に市場を奪われかねないことです.一方,競合他社志向では,プラス面として戦いの姿勢を貫くことはできますが,マイナス面としては受け身になってしまい,顧客への視点や市場全体の大局を見失いがちになります.

 この定義を拠りどころとするなら,寡占化しているFPGAのトップ・リーダ2社は,顧客志向というより競合他社志向に近い戦略を採っていると言えます.実際,相互に相手の動きをもとに自社の動きを決定し,結果としてリーダ企業同士が相互に製品を模倣する行動現象が見られます.そもそもリーダ同士は,安定して成長する市場の中で,どちらも地位を維持したい,そして,現状の利益を享受し続けたい,と思うので,これは当然のことと言えます.

●FPGAが抱える配線問題

 競合他社志向の戦略が保持された結果として,リーダ双方の製品は同質化していき,ドミナント・デザインとなっていきます.また,このドミナント・デザインが生じるとイノベーションは低下します.イノベーションの低下によって顧客が被る不利益として,解決するのが困難な配線問題があります.その問題には,1) 配線領域の増大がチップ価格を押し上げる,2) タイミング収束の問題が容易に解決しない,3) コンパイル時間が増大する,といった傾向が含まれることは,すでに本コラムの連載第5回で述べました.

 配線問題による負荷を低減させる方法の一つは,「工程イノベーション」です.例えば,開発環境や設計ツールの革新を追求する方法や,微細化技術を先取りして配線数を増加させる方法などがあります.具体的には,ロジック・モジュールの粒度を上げてLUT(Look-up Table)の入出力数を増加させる方法や,マルチトラック配線技術,あるいは対角方向に対称な配線経路を置いて配線効率を改善する,といった方法が含まれます.こういった工程イノベーションの研究開発に対して,FPGAベンダ全体で2008年度に7.4億米ドルがつぎ込まれています.これはとても大きな投資金額であり,工程イノベーションは積極的に進められていると評価できます.

 配線問題による負荷を低減させるもう一つの方法は,製品イノベーションを進めて,FPGAデバイスに新しい設計思想をもたらすことです.しかし,FPGAベンダやツール・ベンダはその考え方に悲観的です.特に,配線問題を引き起こす原因となっている格子型構造という設計思想を変革することには消極的です.新たなデバイスの設計思想が本当に顧客に受け入れられるのかを判断できずにいるからです.そして,新しい設計思想はより大きなリスクとコスト負担がかかると考えています.

●配線技術の改善に向けて研究されている要素技術

 商業的に成功しているFPGAベンダの枠外で,製品イノベーションの研究開発が進められています.ここで,研究論文で示されている三つの萌芽について紹介しておきます.

 一つ目は,米国Hewlett-Packard社のナノワイヤ技術です.この技術は,FPNI(Field Programmable Nanowire Interconnect)というクロスバ型スイッチを使ってFPGAの集積密度を8倍に高めています.論理処理の規模が同等であれば,消費電力を削減できます.理論値としては,45nmのCMOSプロセスに本技術を適用することにより,チップ面積を現行比で約4%まで削減できるとのことです.ただし,実現目標は2020年とのことです.少しでも早めてもらいたいと思っています.

 二つ目は,カーボン・ナノチューブの配線応用です.金属的カーボン・ナノチューブは,銅配線の1000倍の電流密度耐性があり,銅配線の10倍の熱伝導率があります.もしFPGAにこの金属的カーボン・ナノチューブを用いることができるのなら,簡単に高速配線と発熱抑制を実現できます.

 三つ目は,モレキュラ・スケールの応用です.現行のFPGAの配線遅延の多くはプログラム・スイッチによって引き起こされています.モレキュラ・スケールの技術によってプログラム・スイッチは現行より2桁小さくなると報告されています.

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