拝啓 半導体エンジニアさま(13) ―― 「舞台裏」の機能にちょっとした工夫を施してみませんか?
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コラム 2010年6月 1日
「どう作る」よりは「何を作る」か,さらにそれより「誰に」「どう売る」かの方が重要だ,とよく言われます.けれど,個人企業でもない限り,「誰に」「どう売る」かなど,簡単に決められることではありません.多くの会社組織では,そういった方針についてはコンセンサスづくりの過程が必須ですし,それぞれの分野の職務を担う担当者の方もいるはずです.一エンジニアの勝手になる話ではありません.余談ですが,コンセンサスをとっているうちにチャンスを逸するというのが,海外企業と比べて動きの鈍くなりがちな日本企業の悪い点かもしれません.
●乏しい予算,差し迫った納期に追われていると仕事が味気ないものに
半導体の設計者として,そのようなことを日夜考え続けている方も多いことでしょう.また逆に,立場によっては「誰に」「どう売る」かといった過程にかかわることそのものが難しいポジションの方もいるかもしれません.かかわってもよく分からん,とおっしゃる方もいるような気がします.
だいたい,多くの半導体設計者に仕事が「落ちてくる」ときには,(厳しい)納期と目標仕様がすでに決まってしまっている場合がほとんどでしょう.大枠で「どう売る」どころか,「何を作る」というところまで決まってしまっていて,せいぜい裁量の余地のあるのは「どう作る」という部分だけ,という状況です.しかし昨今の乏しい予算と差し迫った納期を考えると,余裕のある技術検討やら新手法,新ツールの導入などはなかなかできず,ありものでかつ慣れたやり方でやるしかない,といったあんばいの仕事ぶりになってしまうかもしれません.
こういう受動的な状況に陥ってしまうと,設計という仕事そのものがだんだん味気のない辛い作業となってしまいます.味気のない作業を繰り返していると,設計者の構想力というか想像力が失われ,ますます負の方向にフィードバックがかかり,なにかスッキリしない疲れが溜まっていくような状態に陥ります.このような陥穽からなんとか脱出を試みるべきだと思います.
ことさら筆者が述べなくても,すでに多くの皆さんがやられていることかも知れませんが,なかなか出し入れの余地のない仕事の中で,ちょっとした小さな工夫によって積極的な局面を作りだすことが肝要だと思います.
●「舞台裏」の部分のちょっとした工夫で気分スッキリ
表面の仕様にかかわる部分に勝手なものは入れるわけにはいかないのですが,テスト・モードや診断モード,デバッグ・モードなどの「舞台裏」の部分はあまり細かいことは言われないと思います.要は表の部分をきちんと実現できれば,それ以外のところでいろいろと工夫する余地があるはずです.唯一の懸念は,舞台裏に「凝りすぎて」,表の部分の足を引っ張ってしまうような事態です.これは設計者がみずからバランスをとらなければならない部分だと思います.
ごくごくささやかなフィールドですが,こういうところに入れておいた工夫や新技術が,後々役に立つこともあるようです.特に「表」の仕様に何か不具合が発覚したときなどに救ってくれることがあります.まあ実際は,そのような事態はあまり良い状況とはいえず,ごく限られた局面でひっそりと使われるのが本来の姿ではありますが....
また,こっそり入れておいた優れた技術が,次世代の製品では「表」の仕様に転換されるということもままあります.そこまでいかなくても,局所でも「能動的」な仕事をすることで,仕事全体のバランスをとり,スッキリしない疲れのたまる状態から,疲れても達成感のある状態に持ち込めれば,しめたものです.
楽しく仕事ができれば,「何を作るか」,「誰に」「どう売るか」といった問題にも目を向ける心の余裕が生まれてくると思うのですが,いかがでしょう.それが心の余裕にとどまらず,実用に耐えうる良いアイデアにつながっていけば,正のフィードバックがかかり,仕事が良い方向に回り始めるのではないでしょうか.
ジョセフ・はんげつ