自動車制御におけるモデル・ベース開発の現実 ―― MATLAB EXPO 2009レポート 《ユーザ講演編》

福田 昭

tag: 組み込み

レポート 2009年12月11日

 

●電気自動車のECU開発にモデル・ベース開発を適用

 三菱自動車工業は,軽自動車ベースの量産型電気自動車「i-MiEV」の制御システム開発にモデル・ベース開発を適用した事例を報告した(写真5).「新世代電気自動車i-MiEVの品質を支えたモデル・ベース開発」と題して,三菱自動車工業の早舩 一弥氏が講演した.


写真5 会場には,三菱自動車工業の電気自動車「i-MiEV」が展示されていた.

 エンジン制御システムの開発におけるガソリン自動車と電気自動車の大きな違いは,キャリブレーションの複雑さにあるという.ガソリン・エンジンでは複雑なキャリブレーションを必要とするのに対し,電気モータはガソリン・エンジンに比べると制御系が単純なので,キャリブレーションが非常に簡素になる.また電子制御ユニット(ECU)のマイコン・ソフトウェアの容量がガソリン車に比べると少なくて済んだ.電気自動車では非線形な制御が少ないからではないかと理由を類推していた.

 そして,電気自動車i-MiEVの電子制御ユニット(ECU)開発にモデル・ベース開発を適用した過程と結果を説明した.導入手法はかなり慎重なものである.モデル・ベース開発では,サプライヤ(電装品メーカ)にモデル・ベースの仕様書を納品してコードを作成してもらうスタイルが少なくない.しかし,三菱自動車は自社で作成したコードをサプライヤに納品し,ECUに組み込んでもらった.アプリケーションはすべて三菱自動車で開発し,保証するという態勢である(写真6).


写真6 モデル・ベース開発における三菱自動車(MMC)と電装品メーカ(サプライヤ)との分担関係

 

 モデル・ベース開発は,モデル作成,モデル検証(MLS:Model In the Loop Simulation),自動コード生成,SILS,ラピッド・プロトタイピング(実装)の順番で実施した(写真7).これには,数多くのツールを使いこなす必要がある.モデル・ベース開発にはツールの利用が不可欠であると早舩氏は述べていた.しかもモデル・ベース開発の導入にはさまざまな付帯作業があり,従来の2倍くらいの工数がかかったという(写真8).


写真7 V字開発プロセスにおけるモデル・ベース開発(MBD)の対象部分

 



写真8 モデル・ベース開発の各工程で使用したツール群

 

 もちろん,モデル・ベース開発の効果はあった.モデル・ベース開発の採用により,仕様書作成からコード認証までの工数は従来の22カ月から15~16カ月へと短くなった.そして検証ツールを駆使することにより,従来は400パターンのテストを実施していたのが,10倍近い3,000パターンものテストを実行できるようになった(写真9).400パターンというのは人手によるテスト・パターン作成数の限界値であり,検証ツールを利用することによって人手を超える数多くのテストが実行できた.


写真9 モデル・ベース開発の採用による効果

 

 またモデル・ベース開発の導入により,要求仕様書が極めて重要であることをあらためて認識したという(写真10).仕様書に記述されていない事項はテストが不可能であるから,仕様書を最大限に充実させておく必要がある.さらに,先行開発チームが作成した仕様書がオフラインで電子設計チームに伝わるために仕様書と開発成果物にズレが生じること,Simulinkは個々のブロックを記述するのには非常に優れているもののシステム全体のふるまいを把握しにくいことを指摘していた.


写真10 モデル・ベース開発の採用で要求仕様書の重要さが浮かびあがる.

 


 「電気自動車は(すべてが)組み込みソフトウェアで動いているようなもの」(早舩氏)である.何よりも重要なのは仕様書の作成であり,オンラインで作成したモデルからテスト・ケースの作成までが連続して進むようにすべきだ,としていた(写真11).


写真11講演のまとめ
HILSによる品質確保が不可欠だとする.

 

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