技術革新の三つの潮流に合わせてMATLAB/Simulinkの改良を継続 ―― MATLAB EXPO 2009レポート 《基調講演編》
制御システムや信号処理システムなどの設計支援ツールである「MATLAB/Simulink」を開発している米国The MathWorks社の日本法人マスワークスジャパンは2009年12月2日,同社の顧客向けの講演会/展示会「MATLAB EXPO 2009」を東京で開催した(写真1).
今回のMATLAB EXPOはThe MathWorks社の日本法人が2009年7月に発足して以降,初めての開催となる.2008年までは日本国内の総代理店であるサイバネットシステムとThe MathWorks社がMATLAB EXPOを共催してきた.といっても会場は昨年と同じ港区のザ・プリンスパーク タワー東京で,会場のレイアウトは昨年と同様であり,雰囲気も昨年と同じで活気に満ちていた.
MATLAB EXPOでは最大10本前後の講演が並行して実施された.その中から本レポートでは,午前中の基調講演の概要を紹介する.
●代理店による販売から日本法人の設立へ
マスワークスジャパンの社長を務める梨澤 利隆氏が登壇し,開会のあいさつを述べるとともにMathWorks社の会社概要を説明した(写真2).
MathWorks社は技術計算ソフトウェアの開発企業として,1984年に設立された.2009年の現在は全世界に約2,000名の従業員を抱える.2008年の売上高は約5億ドルである.同社製品のユーザ数は全世界175カ国で100万人を超えるという(写真3).
日本では1988年に前述のサイバネットシステムが代理店となってソフトウェアのライセンス販売を始め,2002年に顧客向けのイベント「MATLAB EXPO」を開始した.その後,MathWorks社が世界各地域の販売体制を代理店方式から現地法人方式に切り換える決定を下したことに伴い,日本でも昨年(2008年)1月に代理店から日本法人への事業移行のプロジェクトが発足し,今年(2009年)7月に日本法人による販売・保守が始まった.
日本法人の本社オフィス所在地は東京都港区赤坂で,国内には東京のほか,名古屋と大阪に営業拠点を構える.従業員数は約120名である.
●米国経済は「ニュー・ノーマル」に突入
梨澤社長のあいさつに続き,MathWorks社の共同創業者兼社長(プレジデント)であるジャック・リトル(Jack Little)氏が「Driving Innovation ~技術革新の促進~」と題して講演を行った(写真4).講演ではマクロ経済の現況にふれたあと,イノベーションの動向を説明し,最後に同社製品の根幹であるモデル・ベース開発を解説した.
マクロ経済の世界では,昨年(2008年)秋以降の世界同時不況から世界がどのような形で抜け出すのかが大きな関心を呼んでいる.景気回復の形にはU字形やV字形,W字形などがあるものの,長期にわたってゆっくりと回復する姿を予測するエコノミストが多いという(写真5).そして米国経済については,「ニュー・ノーマル(新しい普通)」と呼ぶ状態に入りつつあるという認識が広がっていることを紹介した(写真6).このニュー・ノーマルとは,経済成長に占める家計支出(消費)の割合が減少し,家計に占めるローン(借金)の割合が減少するとともに貯蓄の割合が増加するといった状態が普通になることを指す.
そして景気回復の決め手となるのが,イノベーションであるとした.イノベーションが需要を創出し,供給を創出し,経済の成長を刺激するという考え方だ.