自動車制御におけるモデル・ベース開発の現実 ―― MATLAB EXPO 2009レポート 《ユーザ講演編》
●10年を超えるモデル・ベース開発の採用実績
日産自動車は,ガソリン・エンジンの制御システム開発にモデル・ベース開発を適用してきた.その成果を「自動車用エンジン制御のモデル・ベース開発 ~ここまで理想に近づいた開発プロセス~」と題して同社の柿崎 成章氏が講演した.
電気自動車が最近は注目されているものの,当面はガソリン・エンジン車が自動車の主流であることは間違いない.ガソリン・エンジンに対する最も強い要求は燃費性能の向上であり,制御要素の数がどんどん増える傾向にある.エンジン制御システムの開発は,制御結果を見ながら制御仕様を煮詰めていくスタイルであり,試作と仕様修正を繰り返すことになる(写真12).
写真12 エンジン制御の開発スタイル
従来の開発スタイルは,「修正ループが大きくなる」,「自然言語による仕様書なので自動車メーカとサプライヤの間で情報伝達の齟齬(そご)による手直しや確認作業が発生する」,といった問題を抱えており,制御システムの大規模化と複雑化に追随できなくなっていた.そこでモデル・ベース開発を導入し,修正ループを小さくするとともに情報伝達の確実性を向上させ,開発ツールの支援によって修正作業の負担軽減を図った(写真13,写真14).
写真13 モデル・ベース開発(MBD)の適用
写真14 モデル・ベース開発の概要と開発ツール群
ここで重要なのが,モデル・ベース開発を現場の実情に合わせて運用を工夫し,実施状況をモニタしながら改善を重ねていくことである(写真15).また,開発ツールは時間の経過とともに改良されていくので,ツールの進化に合わせて開発ガイドラインを更新していくことも大切だという.
写真15 モデル・ベース開発の実務運用
日産自動車におけるモデル・ベース開発の歴史はかなり長い.1997年に,制御系開発にモデル・ベース開発の導入を始めている.現在では開発項目の中で半分近くがモデル・ベース開発を採用するようになった(写真16).また全世界で80%の製品に,何らかの形でモデル・ベース開発による制御系が入っている.
写真16 モデル・ベース開発の導入実績
さらにモデル・ベース開発の導入により,修正ループの短縮と情報伝達の正確さ向上のほかにも,いくつかの利点が生まれたことを明らかにした(写真17).「改善(修正)ループを短時間で進めることが可能になった」,「情報伝達の付帯作業と解釈誤りが減少した」,「制御開発に特化したツールの活用によって設計期間が短くなるとともに正確さが向上した」,「設計品質が安定になった」,といった利点である.
写真17 モデル・ベース開発の導入によって生まれた利点
ふくだ・あきら
テクニカル・ライタ/アナリスト
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