開発エンジニアのためのiPhone活用法(1) ―― iPhone電卓/計算機アプリを時定数やA-D変換,電荷量の計算に利用する
1.電卓/計算機アプリ
回路設計エンジニアに必須の道具といえば,電圧/電流を測るテスタや波形観測のオシロスコープよりも何よりも,まずは「電卓」だと思います.そのため,工具屋では非常に多種多様の関数電卓,またはポケット・コンピュータが売られています.
むろん,iPhone標準の電卓でも計算できないわけではありませんが,たかだか12けたの有効けた数や三角関数/小数点演算を多用するアナログ回路の演算にはまったく不向きです.そこで,パソコンの電卓アプリを用意する,という方法もあるのですが,
- 電卓を起動するにはパソコンの起動が必要
- 電卓アプリを立ち上げるのに余計な操作が必要
- 操作中は絶えずマウスとキーボードの二つの間で手を行き来する必要がある
という不満があります.
そこで筆者は,いつも携帯するiPhoneの中にいくつかの電卓アプリを入れて,開発現場で使用しています.筆者が本稿の執筆時点で「calc」というキーワードでAppleStore内を検索しただけでも,開発者向けの関数電卓,金融機関/金利計算向けの電卓,体重/体脂肪などに関する計算機など,およそ200種類のアプリが登録されていました.
ここでは,筆者のiPhoneアプリの中でも群を抜いて使い込んでいる電卓アプリを四つ紹介します.
●Calc(無料アプリ)
Calcは筆者が一番長く使用している電卓アプリです(1).
本アプリは,計算時に打ち込んだ内容の記録が画面上に残り,あとで見直すことができるというのが特徴です(図8).三角関数や平方根,指数演算という基本機能は用意されており,さらに演算結果をそのまま次の計算に使用することができます.
またメール機能と連携しており,計算の過程と結果をメールで送信できます.摂氏/華氏,m/Feet,Cm/Inch,さらにはKm/Mileの変換機能もついています(図9).
図8 calcの演算結果が記録される電卓メニュー
図9 calcの単位変換メニュー
●TouchCalc(無料アプリ)
TouchCalcは,実際の関数電卓と同じような使い方ができる便利なアプリケーションです(2).
筆者の場合,主に2進数や10進数,16進数の値同士の論理演算,そして固定小数点(FixedPoint)と有限2進数(BCD)の相互変換を手軽に行いたい場合に利用しています.市販の関数電卓を模写したiPhoneアプリケーションの中で64ビット長の2進数を扱えるアプリはそう多くありませんが,TouchCalcは対応しています(図10)また,演算結果は底を10とするlog表記で得ることができますし,有効けた数を設定できるのも利点です.
精度を要求される算術演算を行う場合,それこそ目の前のパソコンで倍精度整数演算(long-long)を使えばよい話ですが,手っ取り早く回路動作の傾向を求めたいときは,小数点以下2~3けたで丸めを行った値で十分なことが少なくありません.このTouchCalcは,「指数表記+小数点以下」の有効けた数をどれくらい得るのかということを0~16けたの範囲で任意に指定できます(図11).
図10 TouchCalcの論理演算メニュー(32ビット演算モード)
図11 TouchCalcの演算モード,精度指定などの設定メニュー