Cell Broadband Engineを利用したホログラム計算(前編)
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電子ホログラフィとマルチコア・プロセッサ
電子ホログラフィは,計算機上でホログラムを作成し,液晶ディスプレイ(LCD)などの電子デバイスを用いた光学系で3次元像を再生する技術です.LCDに表示するホログラムを逐次更新していくことで動画再生も可能であり,ビデオ・レート(数十フレーム/s)で動作させることができれば,究極の3次元テレビになると期待されています.
しかし,ホログラム作成の計算コストは膨大であり,実用化は困難な状況にあります.ソフトウェア上でアルゴリズムの改良が進められ,現在では,従来の単純なアルゴリズムに比べて数十倍速いアルゴリズムが開発されていますが,実用化にはさらに何けたもの高速化が要求されています.
この課題に対して,筆者らの研究グループでは1992年から専用ハードウェアを開発することによってホログラム作成を高速化する研究を行っています.本稿でも記述していますが,ホログラムの計算は並列化が非常によく機能します.そこで,ホログラム計算回路を多数実装したハードウェアを開発すれば,飛躍的な計算速度の向上が見込めます.
図Aは2003年に開発したホログラフィ計算専用ボードです.大規模FPGA(Field Programmable Gate Array)を4個搭載し,1,408並列分のホログラム計算回路を実装しました.このボードはPCI(Peripheral Component Interconnect)接続の基板として作製し,1台のパソコンに複数枚装着できるようにしました.4枚装着することで,高速アルゴリズムを実装したパソコン単体と比べて1,200倍の演算速度を達成し,10,000点で構成された3次元像をリアルタイムに動画再生することに成功しました.図Bはその再生例で,歩きながらほえる恐竜の3次元動画をデジタル・カメラで撮影したものです.
図A 大規模FPGAを4個搭載したホログラフィ計算専用PCIボード
図B 電子ホログラフィ動画の再生例
このように,専用計算機システムはホログラム計算において非常に有効ですが,ハードウェア開発はそれなりのノウハウとコストを必要とします.そこで着目されるのが,Cell Broadband Engineなどのマルチコア・プロセッサです.マルチコア・プロセッサは構造上,並列計算を得意としています.開発環境も急速に整備されてきており,一般のユーザがさまざまな用途で使えるようになりつつあります.
量産化によるコスト・ダウンを考えると,近い将来,専用チップによるハードウェア開発よりも,マルチコア・プロセッサを利用したシステム開発の方が有利になるかもしれません.